HB Gallery

Blog

才村昌子銅版画展「The winds awaken ―風が目覚める― 」

今週の作家さんは才村昌子さんです。HBでは初めての個展開催となりました。日々の生活での気づきや、詩や音楽から生まれたイメージを銅版画で自由に表現されました!版の重なり、インクの違いによる表情の変化もお楽しみください。

「ライオン少女」

 

Q1.今回の個展のテーマについてお聞かせください。

二十代後半での初個展以降、書籍装画や挿絵の仕事が来るようになったのですが、その後しばらくデザインの仕事に重点を置いていたこともあり、描くことを楽しめない時期が長かったように思います。完成度を求めて銅版画制作自体も精神的鍛錬のような、そんな堅苦しい感覚でした。

昨年秋にピアノリサイタルの告知ツールのデザインの依頼をいただいたき、その音源を聴きながら銅版画を制作した際、
音楽から大きなインスピレーションを得て、風が通り抜けるような自由で解き放たれた感覚が目覚めました。その時生まれたのが、今回の個展にも出展しているネコピアノ、ピアノネコ(二版の色を入れ替えて刷り上げたもの)です。私にしては珍しく肩の力の抜けた作品となり、音楽家やリサイタルのお客様にも大好評をいただきました。

今回の個展のタイトル『The winds awaken』は、 W.B.イェーツの『妖精の群』という詩の一節から付けました。
妖精が野山を通り抜ける際にThe winds awaken(風が目覚め)、「俗世の煩わしさを捨て去って、こちらの世界へ来てごらんなさい、逃げていらっしゃいよ!」と誘うのです。そのような誘いに乗って心赴くままイメージを遊ばせ制作していきたいと思い、本展のテーマ、タイトルとしました。

「ピアノネコ」

「青い少女」

 

Q2.銅版画はいつ頃から始められたのですか?また、銅版画の楽しいところなど、魅力をお聞かせください。

銅版画を始めたのは10年ほど前のことです。デザインの仕事をしていると、印刷物が大量に刷られ、瞬く間に消耗され役割を終えていくことに、違和感を覚えるようになりました。

その真逆を行くような、500年以上前の複製技術である銅版画は、描いた版を腐食させインクを詰め、余分なインクを拭き取り、一枚ずつプレス機の圧で刷り上げます。この手間暇かかるプロセスには、物事を伝達し共有することの原初の熱のようなものを感じます。深く腐食された銅版の窪みはより多くのインクを含み、紙に刷り上げるとインクの盛り上がりに光がキラキラ反射し、なんとも魅力的な物質感を湛えます。

また描くだけでなく、製版や刷りの職人的な手業にも魅力を感じます。気温や酸の濃度に左右されコントロールが難しい反面、制作過程での実験を繰り返すことで、思いもよらぬ効果や偶然の美との出会いがあり、そこからまた創る喜びや楽しさが生まれます。それから、絵の具で描いていた時の作品は売れてしまうと手元に残りませんが、銅版画は版があるので、自分用に刷れて手元に残せることも嬉しいところもポイントです。

 

「花影の記憶」

 

Q3.作品を作る上で、心がけていること、大切にされていることは何ですか?

日々の散歩の風景や音楽、自分を取り巻くモノやカタチが、断片的な光と影の合間に浮かび上がったり沈んだり、見えたり見えなかったり、その移り変わる現象の面白さを描いたり消したり、思い出したり忘れたり・・・そんなイメージの遊びを作品にしたいと思って制作しています。

 

Q4.これまでどんなお仕事を手掛けられてきましたか。

私の装画でのデビューは、単行本で林真理子さんの「初夜」(文藝春秋)で、以後は人間性の深い部分を描き出すような小説の人物像を描く依頼が続きました。

抽象的な表現は、主にCDジャケットの仕事が多いです。3歳からバイオリンをやっていたこともあり、目を瞑ってバイオリンを弾くと風景や色彩のイメージが浮かび上がるのを面白く感じてました。ジャケットの仕事は、まず音源をいただいてその音楽を聴きながらビジュアルを制作しデザインまで落とし込むのですが、子供の頃からバイオリンを弾いて感じていた感覚が、そのまま視覚表現になったような感じがします。2015年に音楽家とのコラボレーションアルバム、花影の小径~堤聡子 (ピアノ) × 才村昌子 (銅版画) の世界~(ワオンレコード)もリリースされています。

 

「樹木の夢(水玉の物語)」

 

Q5.今後やっていきたいこと、やってみたいお仕事などお聞かせください。

書籍の表紙を描き、デザインまで手がけることをやりたいと思っています。また、来年ピアノと銅版画作品集のアルバムのリリースが決定しており、銅版画の世界観をより深めていきたいと思います。詩と銅版画展などもやりたいですね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

コメントフィード

トラックバックURL: http://hbgallery.com/blog/2021/01/31/%e6%89%8d%e6%9d%91%e6%98%8c%e5%ad%90%e9%8a%85%e7%89%88%e7%94%bb%e5%b1%95%e3%80%8cthe-winds-awaken-%e2%80%95%e9%a2%a8%e3%81%8c%e7%9b%ae%e8%a6%9a%e3%82%81%e3%82%8b%e2%80%95-%e3%80%8d/trackback/