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6月2024

堀江恭一個展 「海底酒場で逢いましょう」

今回ご紹介するのは、2024年6/14~19に個展を開催された堀江恭一さんへのインタビューです。
懐かしいモチーフがたくさん登場する堀江さんの作品たち。
懐かしいだけではなく、不思議な雰囲気も感じます。
版画やコラージュで制作された独特のテクスチャも魅力的です。
会場の様子をインタビューとともにお楽しみください!

 

ー堀江さんは初めての個展となりました。
「海底酒場で逢いましょう」と題し、昭和レトロな風景とSFの世界をミックスされた、
ユーモアと温かさのある世界を表現されています。
ご自身が創造された世界をイラストレーションで表現するために、
堀江さんが工夫されていること、意識されていることなどはありますか?
今回の個展においては、主に紙版画を使い、昭和レトロとSFをミックスした世界観を表現しましたが、
その世界観が出るよう一番工夫したことは、昭和の匂いのするアイテムを画面内に置き、どこか懐かしい印刷物を感じさせる色合いを出すということでした。
幸い版画用インクはレトロ感を出せる色があったので、それを多用しました。
また、ユーモアのあるストーリーをできるだけ盛り込んでいきました。
ー堀江さんは定年退職を機に本格的にイラストレーションに取り組まれ、
東京装画賞では銀賞を受賞されるなど目覚ましいご活躍をされています。
堀江さんがイラストレーションを志されたきっかけや理由は何だったのでしょうか?
40年以上も前の話になりますが、もともと美術系の大学への進学希望はあったものの、
家族の理解が得られそうにもなかったので普通の文系大学に入学しました。
しかしながら絵への想いをあきらめられず、夜はセツ・モードセミナーに通っていました。
大学卒業時点で絵の世界へ踏み切ることも考えましたが、絵で生計を立てていくほどの腕前も自信もなかったことから、普通のサラリーマンの道を選びました。
サラリーマンの定年退職が近づくにつれ、絵への想いが再燃し、後悔してあの世に行きたくないと考え、
定年退職を機にイラストレーションに本格的に取り組むこととしました。
ー展示されている版画作品は、ドライポイントやコラージュなど、様々な技法を併用され、マチエールへのこだわりを感じます…!
現在の表現方法に至った経緯や、堀江さんご自身が作品制作で影響を受けた作家や表現媒体などあれば教えてください。
もともとドライポイント教室に通って作品を作成しており、ここでは細かく彫った具象的な作品を作成していました。
このような中、もうちょっと心象的なものを表現できないかと考えるようになっていたところ、
当時、タダジュンさんの紙版画に出会い、作品が訴えかけてくる力に圧倒されました。
そこで、私も紙版画をやってみようと思い、独学で紙版画を始めました。
独学でやっていますからどんどん好き勝手に作っていき、現在のスタイルになりました。
ー個展では鮮やかな色彩で表現されたデジタル作品も展示されています。
堀江さんがデジタル制作を始められたのはなぜでしょうか?
堀江さんが感じるデジタルの魅力や、
版画の制作と比較して何か違いや共通点などはありますか?
デジタル画を始めたきっかけですが、もともと興味はあったものの、Photoshopで絵を描くことをマスターできずに途中であきらめていました。
こうした中、峰岸達先生が主宰されているMJイラストレーションズに入塾しました。
そこでは、課題が2週間毎に出されますが、版画ではとても間に合いません。
そこで、昔、あきらめたデジタル画に再チャレンジしました。
今度はAdobe Frescoで始め、これは比較的、初心者でも使いやすく、私でも絵を描くことができました。
デジタル画の魅力ですが、版画と比べ自由に色を使え、また、色んな筆が使え、油絵風、水彩風など色んな描き方ができるということです。
また、絵を描いていくうちに自分が求めている色がどんな構成で成り立っているか、「かすれ」とはどういうことかなどを学べ、非常に勉強になります。
版画との相違点ですが、私の場合、版画は3~4色刷ですので、使える色数が少なく、作成する際、パズルのようにどこにどの色を置くか考えなければなりません。
一方デジタル画はその辺を気にする必要はありません。
版画と似ている点ですが、双方とも、描く際にレイヤー若しくは版を使い、色面を分解して作成するところだと思います。
版画をしていたせいか、レイヤーにはすんなり馴染めたと思います。
ー堀江さんが今後挑戦されたいこと、
イラストレーターとしての展望などをお聞かせください。
私は現在63歳ですので、他の新人イラストレーターに比べ、残された時間が非常に短いという現実を踏まえなければいけないところですが、あと、油絵、アクリル画をしてみたいと考えています。
今後は、装画の仕事ができればいいなと考えています。
インタビュアー 須貝美和

安里貴志個展 「fragment」

今回ご紹介するのは、2024年5/31~6/5に個展を開催された安里貴志さんへのインタビューです。

HBギャラリーコンペでも賞を受賞され、注目されている安里さん。

独特のテクスチャで描かれた作品で素敵な展示空間にしていただきました。
そんな安里さんならではの作品はどのように制作されているのか等お聞きしました。

会場の様子をインタビューとともにお楽しみください!

展示作品はオンラインショップでお取り扱い中です。
http://hbgallery.shop-pro.jp/

ー今回の個展では「fragment」と題し、
安里さんが日々の断片をモチーフに作品を制作されました。
忘れてしまいそうな日常のかけらを、作品として描き留めるために
安里さんご自身が意識されていることや、
工夫されていることなどはありますか?
外で歩いている時に道端の花や人のことを見て、なんとなく覚えておこう程度で記憶しています。余裕がある時にはキョロキョロしながら、身の回りのなんでもないものをスマホで簡単に写真に撮って、自分の趣味趣向、琴線を確かめるためのメモな感じで記録することもあります。
ー安里さんのInstagramを拝見すると
https://www.instagram.com/takashi_asato/
現在の画風に至るまでに、ペンやクレヨンなど様々な画材で
グラフィックデザインやイラストレーションの研究を重ねてこられた痕跡が伺えます。
安里さんがこれだけの試行錯誤を継続できた理由はなぜでしょうか。
また、安里さんが制作を通して追い求めてきたテーマや、
表現したいこと、見たい景色などがあれば是非お聞かせください。

 

何か自分でできることをやらなきゃという不安と焦燥感があったので、
それを解消するのに日々の実験や研究はちょうど良かったというのはあります。
あと、1日1枚制作している時期は短時間で描くしかなかったので、
他のイラストを見てこんな感じにしたいとか考える間もなく、自分の絵に向き合うことしかできなかったのが良かったと思っています。

頭の中にある方法や感覚で描いていく中で、遊びを加えたり、発見があったりと自分なりの楽しみに繋げられたからこそ継続できたのだと思います。

また、これまでやってきた実験、制作を通して、自分のコントロールできないアナログ感や偶然性に魅力を感じているので、そういった予定調和ではないところを楽しんでいきたいなと思いました。そして、日常の繰り返しの中にある少しの変化やちょっとした喜びを表現できたらいいなと今のところ思っています。

ー安里さんはグラフィックデザイナーとして広告制作に携わりながら、イラストレーターとしても活動され、
昨年はHBファイルコンペ八木彩特別賞、HB WORK岡本歌織大賞を受賞されました。
安里さんがイラストレーターとして活動を始められたきっかけは何だったのでしょうか?

前の質問の答えとも少し重なるのですが、デザイナーとしても社会人としても何もできず、何か武器になるものがないと不安だったので、イラストのスタイルを作っていこうと思って取り組み始めました。結果的に、大衆に向けての広告デザインに対して好き勝手に自分の趣味趣向に合わせたイラストを描いてみたことが、仕事とのバランスがとれて良いチャレンジになったとは思います。

ー安里さんの揺らぎと温度感のある独特のテクスチャはどのように生み出されているのでしょうか?
また、現在の手法に影響したグラフィックデザインや絵画などはありますか?

 

作風については、自分の好きな映画や音楽の、抑揚の少ない穏やかな感じに合うテンション感でありたいと思っているので、自分の好きで落ち着くところを確かめながら絵とすり合わせています。

また、影響というほどではないかもしれませんが、アウトサイダーアートという位置付けの作品を見た時の感動を今でも覚えていて、糸を執念深く縫い続けたり、緻密で色鮮やかな点を打ち続ける作品たちから伺える、純粋な行為としての作品作りに、憧れというかリスペクトがあります。その個人的なこだわりを貫くスタンスから学び、現在の色鉛筆の線をしつこく複製してテクスチャとして用いる手法に繋がっている気はします。

 
ー安里さんが今後挑戦されたいこと、
アーティスト、イラストレーターとしての展望などをお聞かせください。

お仕事で言うと、商業施設のビジュアル、パッケージもやってみたいですし、温度感や柔らかな空気感のあるイラストなので、ファッション系や香り系の微妙なニュアンスの表現も得意かと思います。ぜひやってみたいです。展示の機会があれば色々な場所でやりたいと思っていますし、その都度作品として表現方法や技法など、何かチャレンジしていきたいとも思っています。

インタビュアー 須貝美和

あきやまりか個展「Curious」

今回ご紹介するのは、2024年6/7~12に個展を開催されたあきやまりかさんへのインタビューです。
あきやまさんはHBでは初めての個展開催です。

独特の風合いの作品は紙版画を中心に制作されたそうです。魅力的な作品の並ぶ展示空間となりました。展示作品はオンラインショップでお取り扱い中です。

http://hbgallery.shop-pro.jp/

ー大阪在住のあきやまさん、東京では初めての個展となりました。
HBでの個展を決意された理由や
今回の個展のテーマをお聞かせください。

今まで、大阪や京都など自分が生活している地域で個展を行っておりました。東京に来る度に立ち寄らせていただいたり、好きな作家さんが個展をされている会場でしたので、いつか自分もできたら良いなと思っておりました。

今回は「Curious」をテーマに自分の興味のあるものや、夢で見た不思議な生き物などを描きました。
 
ー会場では紙版画による作品を中心に展示されています。
あきやまさんはこれまでにも、阪急梅田やコトモノミチなどで紙版画のワークショップを開催されています。
紙版画を始められたきっかけは何でしたか?
あきやまさんが感じる紙版画の魅力は何でしょうか?

初めはアクリル絵の具で絵を描いていたんですが、版画に触れる機会があり、そこからどんどん版画が好きになりました。

線のカスレやにじみなど、版画独特の表現がとても好きで、やはりプレス機から刷り上がった紙をめくるワクワク感がたまらなく魅力的です。ワークショップはそのワクワク感を皆さんに体験していただけたらと思い、開催しました。めくる瞬間、みなさん目がキラキラしてこちらまで嬉しくなります。
ー個展では木製パネルと真鍮ピンを使った半立体の作品も発表されており、会場でも目を惹く存在です。
あきやまさんがこのような独自の表現をされるようになった経緯や影響を受けた表現などはありますか?

以前にチェコを旅行で訪れたことがあり、その際に見たちょっと怖いような不思議な魅力がある人形たちがすごく印象に残りました。

版画は白黒の世界ですが、自分の中のイメージはカラーなので、版画と一緒に、版画の中のモチーフを飛び出させて展示したことが始まりで、今は版画と木製パネルの作品を制作しています。
ー三重県の和菓子店「瑞宝軒」では
https://zuihouken.co.jp/
あきやまさんがキービジュアルを担当されました。
あきやまさんが描かれた龍と亀のイラスト(龍乃掌と亀乃尾)が
紙袋やパッケージに使用され、イラストの入ったマグカップも販売されています。
こちらのお仕事であきやまさんが心がけられたこと、意識されたことなどを教えてください!

元々和菓子を中心に扱っていたお店が洋菓子と和菓子を扱うお店に変更されるとお聞きしました。ですので、和の雰囲気を残しつつ、渋くなり過ぎないように。和のモチーフはとっつきにくかったり怖くなってしまうこともあるので、若い方にもお年を召した方にも手に取っていただけるように、少し滑稽味がある感じを意識しました。

ーあきやまさんが今後挑戦されたいこと、
イラストレーターとしての展望などをお聞かせください。

本や雑誌に関わるお仕事や、お菓子のパッケージ、テキスタイルなど、いろいろなことに挑戦していきたいです。

今回展示してみて、自分に足りない部分や必要なことが見えてきたので、もっと精進していきたいと思います。
この度はありがとうございました!
インタビュアー 須貝美和