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3月2025

二宮由希子個展「描くひと 装うひと」

今回ご紹介するのは、2025年3月14日から19日に開催された、
二宮由希子さんによる21年ぶりの個展「描くひと 装うひと」についてのインタビューです。
新潮社のデザイナーとして数々の装丁を手掛け、
イラストレーターとしても挿絵や装画など、文芸の世界で幅広く活躍されてきた二宮さん。
今回の展示では、ご自身のキャリアを通じて出会った忘れがたい方々
—影響を受けたレジェンドたちの姿をエピソードと共に描き出されました。
会期中に訪れたお客様は皆、絵の前で足を止め、作品に描かれた人物との思い出や作品について語り合い、
自然と笑顔があふれる温かな空間となりました。
人と人とのつながりが生き生きと感じられるこの展覧会について、
二宮さんに開催の背景や制作にまつわるエピソードをお聞きしました。

 

ー二宮さんは新潮社装幀室のデザイナーとして、
本の装丁を手掛けられていることはもちろん、
イラストレーターとしてもエディトリアル方面にイラストを提供。
HBファイルコンペやTIS公募でも受賞歴をお持ちで
TISの会員でもいらっしゃいます。
デザインにイラストに、お忙しい毎日をお過ごしの中、
個展での作品発表は、実に21年ぶりだそうですね。
二宮さんが久しぶりに個展をされようと思われた理由をお聞きできますか。
何かきっかけなどがあったのでしょうか?

1番のきっかけはコロナでしょうか。
自主規制の期間中に、敬愛する方が次々と亡くなられて、
お別れ会も何もできない状況で自分の中にモヤモヤがたまっていって。
いつかわたしなりの追悼をしたいという気持ちが強くありました。
それと、数年前に友人たちと「還暦記念には何をする?」とおしゃべりしていて、
みんな「海外旅行かな」とか「音響設備を完璧にする」とか話していて、
「それならわたしは還暦記念の個展だ!」と思い、
HBギャラリーを予約しました。それが2年前のことです。

 


ー今回の個展では「描くひと 装うひと」と題し
二宮さんが愛してやまない29名の「似顔絵」と、
その方にまつわるエピソードや想いがキャプションに綴られています。
似顔絵が描かれた画面には、作品の模写も組み込まれており、
二宮さん曰く「似顔絵+似画絵」の画面構成にされた理由や背景を教えてください。

2002年に「PORTRAITS」と題した似顔絵展をHBギャラリーで開催した際、
その人選を知った当時のオーナー唐仁原教久さんから
「見る人が元の顔を知らない似顔絵は似顔絵としては成立しないんだよ」
とアドバイスを受けました。
また安西水丸さんのお別れ会の弔辞で、南伸坊さんが
「僕は好きな方が亡くなると、その人の作品の模写をするんです。
そうするとその人の絵の素晴らしさがよくわかる」
とおっしゃっていて。
作品を模写することでその人をより深く理解し、追悼することにもなるのではないか?
そして1枚の絵の中に似顔絵と、その人を象徴する作品の模写を描くのは、
見るひとにとってもよりわかりやすくなるのでは?
そう考えて今回は「似顔絵 + 似画絵」に挑戦しようと思いました。

 

二宮さんは似顔絵はこれまでも数多く制作されてこられましたが
「似画絵」は初めての試みだったそうですね。
似画絵を制作されてみて、感じたことや発見したことなどはありますか?

 

普通、作品って何もないところから形を作り出していきますよね。

「似画絵」は完成されたものを頭の中で逆再生していくような面白さがありました。
どこから描き初めて、ここは一息で、とか。
ご本人の気持ちになって完成形に近づけていくのは楽しいですが、
いくら描いても再現できないものもたくさんあって
「あー、もうムリ!」と何度も気持ちが折れそうになりました笑。

 

ーイラストレーター歴26年、デザイナー歴20年、
長きに渡り幅広く活動されてきた
二宮さんの創造の源や原動力は何でしょうか?

人との関わり、それが大きいと思います。
もちろん理想はありますが、
どんな風になりたいとかあんまり自分で決めてしまわずに
出会った人からの刺激も大切にすることで、
次にやりたいことが決まってきた感じです。
これからも人との出会いを
大切にしていきたいと思います。

 

 
インタビュアー 須貝美和

足立ゆうじ個展「今は昔の物語」

今回ご紹介するのは、2025年3月7日から3月12日に個展を開催された、足立ゆうじさんの展示インタビューです。

江戸時代の人々や風景の作品を展示してくだいました。
確かな技術によって描かれた精緻な作品にじっくりと見入るお客様もたくさんいらっしゃいました。
大学でイラストやデザインを教えながら挿絵のお仕事もされている足立さん。
お仕事の原画も展示され、見ごたえ満載の個展です。
お仕事以外の制作についてもお聞きすることができました。

会場の様子をインタビューと共にお楽しみください!

展示作品はオンラインショップでお取り扱い中です。
http://hbgallery.shop-pro.jp/

 

 

ー足立さんはイラストレーターとして小説の挿絵を中心に数々のお仕事に携わり、
名古屋造形大学ではイラストレーションの授業や、
「自分にしか描けないイラストレーション」を研究する「足立スタジオ」を主宰されています。
普段は名古屋で後進の指導をされている足立さんが、
東京のギャラリーで個展を開催されようと思ったきっかけや理由などをお伺いできますか?


 

2023年の夏にゴトウヒロシさんが名古屋で個展を開催されていましてお邪魔したところから話が進みました。
名城公園駅真上に移転したばかりの名古屋造形大学の新しいギャラリーで個展がしたいと相談をいただきました。
学生にイラストレーションの今を観せる良い機会と思いましてお手伝いをさせていただいたのですが、
個展の打ち合わせを重ねていく際に逆に相談に乗っていただき次に目指すべき方向が定まりました。
歴史に興味があって時代小説の挿絵を売り込もうとしていましたところHBギャラリーで個展すべしと背中を押していただき、
翌日即申し込みを致した次第です。
普段は鉛筆画を描くのですがデジタルでの着色方法もご指南いただき今回初めてカラー作品での個展に至りました。

 

 

ーHB個展「今は昔の物語」では、
江戸時代の情緒や市井の人々をモチーフに描かれた作品を展示されています。
2022年頃から、物語の余白や行間が描けるタッチを目指して描かれているそうですが、
余白を表現するために足立さんが心がけていらっしゃることは何でしょうか。
余白を見せるために描くこと、描かないことはありますか?

 

小説や音楽は時間と共に理解が深まります。絵は一瞬で伝える力があります。
読者様の邪魔をせず、小説に寄り添える挿絵が描けたらと常々考えております。
また、作者様の伝えたい意図を正しく理解するために原稿を繰り返し丁寧に読むようにしています。
説明しすぎず描きすぎず、そしてしっかり情景が伝わる一枚を目標にしています。

 

 

ー足立さんのホームページでは
https://adachiyuji.jp/
お仕事で描かれた作品はもちろん、

人物クロッキーの数々が掲載されています。
足立さんは既に10年以上もクロッキーを継続されており
その枚数はクロッキー帳60冊にも及びます。
クロッキーを行う時間は5分ということですが
5分間で何枚も描かれるのでしょうか?
足立さんがその5分間で意識されていることや
クロッキーにおけるご自身のルール、テーマなどはありますか?

 

自分にしか描けない美しい一本の線を見つける事を目標に、週一回クロッキーを10年以上継続していまして5分で一枚を仕上げていきます。
クロッキー帳100冊描き切れば到達できると信じてコツコツ続けてるところです。一番大切にしているのは重さです。
重心をしっかりと捉えること、それから関節や筋肉のつながり、服のしわの流れを少ない線で的確に表現することを目標にしています。
単調にならないよう線に抑揚や調子をつけたり、バランスよく省略し、イラストレーターらしいおしゃれなクロッキーが描けるよう創意工夫をしています。
 

 

ー足立さんが今後挑戦されたいお仕事や、
イラストレーターとしての展望などをお聞かせください。

 

これまで挿絵を中心に描いてまいりました。
挿絵のお仕事はスケジュールの見通しが立てやすく資料収集など計画的に進めることが出来ています。
鉛筆画は得意なのですが、苦手なことも多々ありましてその一つが着色です。
クロッキーや水彩など苦手にしていたことを苦手のままにしていてはもったいないと気づいた時からコツコツと勉強をしています。
今回初めてカラー作品に取り組んだことで少し苦手意識が薄まったような気がします。
今は本にとても興味がありまして自宅の棚いっぱいにお気に入りの本を並べています。
そのコレクションに自分が関わった本が増えるとますます嬉しくなります。
これから装丁画など本作りに積極的に関わらせていただけたら幸いです。

インタビュアー 須貝美和

 

宇都宮なお個展「唆された少女たち」

今回ご紹介するのは、2025年2月28日から3月5日に個展を開催された、宇都宮なおさんの展示インタビューです。

たくさんの作品を展示してくださった宇都宮さん。
鉛筆で描かれた作品や、鮮やかな色彩を使用した、近年制作の作品も並び、
見応え抜群の圧巻の個展となりました。
宇都宮さんが描く少女はどこか妖しげでありながら、目が離せません。
少女を描き始めた理由もお聞きしました。

会場の様子をインタビューと共にお楽しみください!

展示作品はオンラインショップでお取り扱い中です。
http://hbgallery.shop-pro.jp/

 

 

ー宇都宮さんはパレットクラブのイラストコースで学ばれたことを機に、作家活動を始められたそうですね。
パレットクラブへ通われる以前は、ご自身の作品を発表することなどはされていたのでしょうか?
イラストコースで学ばれようと思われた、きっかけなどを教えてください。

 

パレットクラブへ通うまでは会社員をしていました。食品パッケージのデザインをしていたので、
仕事で絵を描くことはありましたが食べ物を描くことがメインでした。
今回の個展のような人物を描いて発表するとゆう事は全くしていなかったと思います。
コロナ禍になったときにリモートワークに切り替わり、
家にいて仕事するのであれば好きなものを描きたい・イラストレーターとか目指しても良いかも…
とゆう結構軽い気持ちで
イラストスクールを探してしました。
たまたまパレットクラブの受講生募集締め切りのタイミングに間に合ったので通うことにしました。

 

ー宇都宮さんがInstagramを始められた2020年は
クレヨンで犬の絵を描かれています。
現在のような墨と水彩を使われるようになった経緯をお伺いできますか。

 

私がパレットクラブに通うようになった時期はコロナ禍でした。
描いた絵をInstagramで発表する人が急増している印象があり、
私もたくさんの方に絵を見ていただきたい気持ちはあったので描いたらUPするようになりました。
Instagramを始めた頃の絵は課題に対して描いていたものが中心で、
相性の良い画材選びや紙選びをしていました。
自宅での作業なので手頃な画材を使いたかったというのもあり、
クレヨンや色鉛筆などもともと持っていたものを使ってざっくり描いていました。
パレットクラブに通ううちにホラーとか描いてみたら?とゆうコメントを先生から頂いて、
ホラーなら暗いイメージかなぁ〜と思って鉛筆でモノクロ絵中心になっていきました。
また、個展を開催するようになってより多く方と話したりする機会が増え、
そのなかで仕事がしたいな〜と相談すると色が使えたほうが仕事の幅が広がるよと
コメント頂いたことがきっかけで水彩や墨を使うようになりました。
描く時は使いやすさや描き心地の良さを1番大切にしているので今使っている画材に落ち着きました。

 

 

ー宇都宮さんは2022年にUltraSuperNew Galleryで初個展を開催以後、
精力的に活動され、今回は5回目の個展となりました。
HBでの個展は「唆された少女たち」と題し
少女を描いた作品を中心に展示されています。
宇都宮さんが少女を描きたいと思われた理由などをお伺いできますか?

 

初めての個展の際に、少女の抱える心情を描きたいと思ってから自主制作で描くモチーフは少女がメインです。
あとは少女にずっと憧れがあるので描いているのかと思います、もうあの頃には戻れないので…。
怖い女の子たちを描いているとよく言われますが、少女たちは私によって怖い少女を演じていて本心ではないのです。
だから彼女たちの印象は怖いよりちょっとコミカルだと自分では思ってます。
女の子って何事も演じるのが上手いので、描きたい気持ちにも繋がっていると思います。

 

 

ー宇都宮さんは文芸誌「小説トリッパー」(朝日新聞出版)での挿絵を1年間担当されました。
こちらではどのようなテーマで描かれたのでしょうか。
何かお題はあったのでしょうか。
普段の作品制作と比べて、
描く意識に何か変化はありましたか?

 

小説トリッパーの挿画のお仕事は、「抽象よりはちょっと具体的な絵で、ものや動物や植物を自由に描く」
とゆうようなテーマをいただきました。動物なんだけど動物じゃない…みたいなことだったと記憶してます。
極力人物を描かないようにして、あとは自由に実験的に好きなように描かせていただきました。
普段描く少女は思い出に浸りながら描いたり描きたい絵を素直に描いたりするのに対して
挿画は最近の出来事や散歩してる時の周りの風景からイメージしたり、絵日記のような感覚でかいたり、
アイデアスケッチを書き溜めて見返しても面白いと思えるものを描いたり、頭の体操のような感覚で描きました。
トリッパーの挿画を描くにあたってたくさん散歩してネタを探したように思います。

 

 

ー宇都宮さんの今後の展示予定や、
今後挑戦されたいこと、
絵描きとしての展望などをお聞かせください。

 

今後は4月にアートコンプレックスセンターでのグループ展への参加や6月末からは大阪で個展があります。
他にも個展がある予定なのでお知らせはInstagramをチェックしていただけたら嬉しいです。
絵を通して出会いがたくさんあると良いなと思うので、
今後も制作して発表する場を設けられるように活動していきたいです。
個展には音楽をやっている方がきてくれたのですが、
音楽に関わる仕事はしてみたいと思っているのでご縁があれば嬉しいです。
まだ挑戦はできてないんですが、絵を連作で描くことがあるので、
連作の描き方を工夫して漫画みたいに描けるように取り組んでいこうと考えてます。

 

 

インタビュアー 須貝美和

洞智子個展「春浅し」

今回ご紹介するのは、2025年2月14日から19日に個展を開催された、洞智子さんの展示インタビューです。

繊細で静かでありながら、どこか凛とした佇まいの作品は
パステルや色鉛筆で描かれており、その絵肌の美しさに驚かされます。
会場の様子をインタビューと共にお楽しみください!

展示作品はオンラインショップでお取り扱い中です。
http://hbgallery.shop-pro.jp/


ー洞さんは昨年、2回個展を開催されており、
早春に開催された作品展「桃の花」(ギャラリーつつむ・滋賀県)では春の季語と女性を、
10月には「aki-urara」(MOUNT tokyo)では
秋の季語をテーマに描かれた作品を発表されました。
今回のHB個展でも「春の季語」を選ばれていることから、
洞さんが季語に惹かれる理由や、季語の魅力などお伺いしたいです。

 

歳時記をめくると、たくさんの季語があるんですが
それぞれの言葉にそ季節の風景が思い浮かんで、
とても面白いなと思います。
3人子供がいるのですが、子育てを通しての年中行事や、地域のお祭りとか、
毎日の暮らしの中でいろんな事を次の世代へ繋いでいくんだなと感じる事があって、
そんなに堅苦しくは考えていませんが、
自分が絵を描く時も少しですが日本的なものという事を意識しています。
昨年のギャラリーつつむでの個展期間がひな祭りの時期だったので、
桃の節句だから女性と、そこに日本らしい事をプラスして表現できるものはないかなと考え、
俳句の季語が合うかもしれないなと。
実際描いてみたらすごくしっくりきて、面白いなと思いました。

 

 

ー洞さんはマスキングテープとデザインカッターを駆使し
パステルと色鉛筆で面を塗りつぶして描かれているそうですね!
以前からパステルと色鉛筆は使われていたのでしょうか。
現在のステンシルのような技法に至ったきっかけなどはありますか?

 

以前は色鉛筆だけで絵を描いてたのですが、
色むらだったり作業時間だったり、自分が描きたいものと
色鉛筆の相性があまり良くないかもしれないと思うようになりました。
いろんな画材を試したのですが、
パステルなら色鉛筆に似たような感覚で描くことができたので
それからパステルをメインにして色鉛筆と両方を使っています。
パステルの特徴のふんわりした表現でなく、シャープな線を描きたくて
試行錯誤した結果、マスキングテープを使う事に至りました。

 

 

ー展示作品「山笑う」は、
色とりどりの花が咲き、鳥が囀り、賑やかになる春の山を
女性に見立てた2枚の絵で構成された大作です。
平面的な表現は日本画の影響などがあるのでしょうか?

 

自分の描きたいものは何かなと悩んだ時期があったのですが、
日本画の美人画を見て、こんなの描いてみたい!と思って。
なのでとても影響を受けていると思います。

 

ー洞さんの今後の展示予定や、今後挑戦されたいこと、
イラストレーターとしての展望などをお聞かせください。

 

4月8日(火)~4月19日(土)にDAZZLEさんで「装画の仕事」展 に参加します。
今後は季語をテーマにオリジナル作品も制作しつつ、
色んなジャンルのお仕事をやってみたいと思っています。

 

インタビュアー 須貝美和