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右近茜個展 「春と白昼夢」

今回ご紹介するのは、2024年4/12~17に個展を開催された右近茜さんへのインタビューです。
春が訪れ、右近さんならではのどこかホッとするような作品たち。
会場内もゆるやかな時間と空気が流れる素敵な空間にしていただきました。
会場の様子をインタビューとともにお楽しみください!

展示作品はオンラインショップでお取り扱い中です。
http://hbgallery.shop-pro.jp/

ー右近さんはHBでは初めての個展となりました。
今回の個展に寄せる右近さんの想いや
「春と白昼夢」という展示タイトルにされた理由をお聞かせください!

 

この頃、イラストレーターの仕事がぽつりぽつりと貰えるようになったのですが、安定した状況とは程遠く、ここで一度仕切り直しをてしっかりと売り込み活動する必要があると考えました。

HBギャラリーは、私にとって憧れの存在でいつの日か個展ができたらいいなと少し遠くに感じてたのですが、勇気を出して個展をさせて欲しいと唐仁原さんにお願いしました。

普段、身の回りのものを描くことが多い私にとって「春」は新しいことに挑戦したくなったり、少し遠くへ出かけたくなるような活力に満ちた季節です。また暖かな気候の中で、花が咲き、若葉が茂り、見慣れた日常がいつもよりぼんやりと美しく映る「白昼夢」のようなときでもあります。そこで「春と白昼夢」というタイトルに決めました。

ー右近さんはパレットクラブスクール、山陽堂イラストレーターズ・スタジオでイラストレーションを学ばれています。

各々のスクールで右近さんが得た気づきや基礎となった考え方はありますか?
また、講師の方から受けたアドバイスで印象に残っていることなどがあれば教えてください!

 

 

私は子どもの頃から絵を描く職業=イラストレーターに憧れていました。そこで美術大学に行ってデザインを学びますが、イラストレーション作品をほとんど描かないまま、学校を卒業してしまいます。恥ずかしいことに、子どもの頃「私はイラストレーターになれる」と思い込んでそれを疑わず、自己暗示にかかったまま大人になってしまったのです。

イラストレーターへの道が見えないまま大学生活が終わってしまい、困っていたところ、パレットクラブのことを知ってすぐに通う事を決めました。
パレットクラブの基礎コースは週1回、プロとして活躍しているイラストレーターの先生が出す課題をこなしていくのですが、毎週別の先生が色々なアドバイスするので、イラストレーションを描き始めた私にとっては迷うことばかりでした。一年間の授業で一度だけ安西水丸さんの授業を受けてもっと話が聞きたいと思っていたところ、水丸さんが講師の山陽堂イラストレーターズ・スタジオ(SIS)が開講する話をパレット仲間から聞きます。

翌年、一年間SISで安西水丸さんの授業を受けます。課題はなく、月に1回山陽堂書店のギャラリースペースに集まり、描いた作品を先生に見ていただきます。枚数制限もないので、たくさん出す人もいれば1枚しか出せない人もいます。私は後者でした。生徒の中には実際の仕事の絵を先生に見せている人もいたので、とても勉強になりました。

水丸さんの授業の中で私がたくさん作品を持っていけたのは最後の一回だけで褒めてもらえたのも、その時だけでした。「君はどうなることかと思ったけどなんとかなりそう」みたいなことを言ってくれた講評から数日後、水丸さんが突然逝去されたことを知ります。

呆然としていたところにK2の長友啓典さんが講師を引き継いでくれるという話が舞い込んできます。残された水丸さんの生徒たちは、長友さんにどんな授業をしてもらうのか、授業内容から相談しながら2代目講師長友さんとのSISが始まります。

水丸さんと、長友さんでは指導のアプローチが全く違いました。
水丸さんはどんな絵でも一枚の絵の中からいい部分を見出そうとします。よく絵のすみの方に描かれた部分を褒めて、ここがいい、全部このくらいの調子で描いたらいいのにと言っていました。講評の際に水丸さんは作品だけでなく、描いた人の座る位置や作品を置く場所、服装、髪型、態度などからその人の全体を鋭く観察しながらアドバイスします。講評ではぐさりと刺さる毒舌が飛んできたりするので、ピリっとした緊張感がいつもありました。
いい絵とはなんなのか、水丸さんの講評を聞いているとなんとなくわかってくるような気がします。
いい絵とは絵には描かれていない部分、ニオイや温度までも想像させる、見ていて気持ちがよくなる絵だと言っていました。
今思えば、水丸さんの授業に出ているとその感性を少しずつ共有できる、そんな授業だったと思います。

一方長友さんは一枚の絵がどのようなプロセスを経て描かれているのかを知った上で講評するために、作品を一枚だけ持ってこられては困ると言います。講評の際には描いたものはラフでもなんでもいいから、全部持ってきなさいと言いました。絵の束を持ってくる人がいると嬉しそうにして、全てに目を通しました。そしてイラストレーターになりたい人をイラストレーターにするために「たくさん描け」、「描き続けろ」この2つを口酸っぱく言い続けました。K2に持ち込みにくるイラストレーターみんなに毎日たくさん描き続ければイラストレーターになれるって言っているけど、それができる人はほとんどいない。辞める理由なんて探さないで、どんなときも描き続けて欲しいと言いました。
正反対のような二人の指導でしたが、イラストレーターになるには水丸さんの感性や見る目を養う授業と長友さんの四の五のいわずに描くこと、描き続けることの大切さを教える授業は両方大事で、二人の授業を受けられたことは私にとって幸運でした。

ー右近さんは今回の個展のためにアクリルガッシュで描きおろしされ、
アナログでの作品制作は久しぶりだったそうですね。
普段、お仕事のために描かれるデジタルでの制作と比べて、
絵の具や筆を使われた感触や印象はどのようなものでしたか?
楽しかったことや面白かったこと、
逆に苦労したことなどがあれば教えてください。

 

私は普段、タブレットやPCで絵を描いています。水丸さんの授業を受け始めた頃、版画や切り絵など、紙と手に距離がある方法を試したらどうか、と言われて以来ペンタブレットを使っています。それから展示する時を除いて仕事の時もほとんどデジタルで描いています。
ただギャラリーで展示する際には絵の具を使いたいと考えています。全く同じものが描かれていたとしても(私の技術ではできませんが)、出力されたものと、絵の具など使って描かれた絵ではなにか説得力が違うように思います。出力には乗らない情報が原画にはあって、ギャラリーで絵を見る際にはそれを見ることが醍醐味だと感じているからです。
デジタルで描く時には簡単に曖昧な色味を作れるのですが、その色を絵の具で作ろうと思うとなかなか難しくて、色作りには苦戦しました。
計画していた色と違う色ができても気に入って使うときもあって、いつも使わない色が使えたのは楽しいなと思いました。
今後は仕事でも、用途によって絵の具とデジタルを併用できたらいいなと思っています。

ー右近さんが今後挑戦されたいことや、
イラストレーターとしての展望などをお聞かせください。

 

イラストレーターとして、もっと仕事がしたい。書籍の仕事が少しずつ増えてきたので、これをもっと増やしたいと思っています。本に限らず他のジャンルの仕事にもどんどん挑戦できたらいいなと思っています。

インタビュアー 須貝美和

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