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5月2015

塙奈緒個展「横丁魂」

今週の作家さんは塙奈緒さんです。ご自身初めての個展です。
お祭りの屋台や、商店街で働く人々をテーマに描かれる塙さん。頑固そうなおじさんや、笑顔のすてきなおかみさんなど、丁寧なタッチで人情味ある作品がずらりと並びました。画面の隅々まで魂が宿っているような筆致に圧倒されます!赤提灯を目印に、ぜひお立寄りくださいませ!

 

 

— 今回が初個展とのことですが、やってみていかがでしたか?やる前と心境の変化などありましたらお聞かせください。

もっと新作を描きたかったなという気持ちが大きいです。去年1年間、気持ちが沈んでしまってあまり描けませんでした。初めて絵の仕事をいくつかしてみて、契約面や描き方などがわからずに試行錯誤していたのもあります。仕事以外のオリジナル作品であまり自分を高めることができず、後悔の方が実は大きかったんです。

個展がはじまって、反応が悪かったらどうしようという不安もありました。みんな祝福してくれるけれど、本心はどうなんだろうとか。でも、絵を見てもらいコメントを頂くことで、沈んでいた気持ちを前向きにしてくれるような大きなパワーがあるなと感じました。HBギャラリーはずっと憧れで、そこでできたということがすごく嬉しいです。キラキラした喜びがあります。
展示にあわせて提灯をつけたり、祭り囃子の音楽をかけたりと、自分の好きなように演出できるのはおもしろかったです。「やらかしていいんだ!」と開放的な気分になれました。

 

 

— 会場全体がお祭りの感じでおもしろいですね。塙さんはこれまで様々な経歴をお持ちですが、絵の道に進まれたきっかけは何ですか?

社会人になるまで絵の道に進むことは考えていませんでした。就職活動の時期、色んな人の作品が雑誌で紹介されているのを見て、広告やデザイン系に憧れ、アートディレクターやクリエイティブディレクターの仕事に惹かれたことはあります。でもアドバンテージが何もなかったので、そちらには就かず相性の良かったITの会社へ就職しました。そこで営業まわりをしていた際、次のアポまでの時間つぶしで、よく書店の絵本コーナーへ行っていました。そのうちに自分でも描きたくなったというのがはじまりです。

でもやり方がわからず、様々なコンペに応募しては落選していました。絵の通信教育を受け、教室へも行きましたが、自分の強みや拠りどことのようなものが何も発掘されなかったんです。また一からやり直そうと思いました。絵本はお話の方ばかり考えていたので、もっと手を動かすことを学ぼうと思い、青山塾へ通い3年くらい勉強しました。

2年目あたりからは屋台を描いていました。先生にも「これを極めればいいんじゃない?」と言っていただけて、数を描いて、3年目でペーターズのコンペで受賞できました。関係者以外の方も自分の絵を評価してくれるんだと少しホッとしました。

青山塾に通っていた頃も、その前半はタッチも決まらず、モチーフも決まらず、何を描いてもダメでした。絵を諦めないといけないかもとまで思い、自信も自尊心も何もなくなっていました。屋台を描いてからは少しずつ、これでやっていけばいいのかもという自信が出て来て、作品も徐々に増えていきました。

 

 

— 屋台をモチーフにしようと、そこへ辿り着くまではどのような経緯があったのですか?

自分の好きなものを初めて描いたのがこのモチーフでした。
網中いづるさんや日端奈奈子さんが憧れで、女の人や都会的なおしゃれな感じが好きだったり
長新太さんのナンセンスな感じも好きでした。それをずっとひきずっていて、自分が介在していない絵を描いていました。先生にも色々ダメだと言われていて、でもそれを正直に受け容れられずに悶々とした時期がしばらく続きました。

自分の好きなものを描けばいいんだとわかってから、自分の好きな絵と描ける絵は違うということもわかりました。それからは、ベタ塗りで今のモチーフになります。人から影響を受けやすい性質なので、目も耳もふさいで、他の人の作品は見ないようにし、半年くらいはギャラリーまわりもしませんでした。ひたすら自分の絵とだけ向き合っていたんです。絵の道に進んでからは、落ちこんでいる時間や、打ちのめされている時間の方が多かったなと感じます。

 

 

— 屋台に魅かれるところはどんなところですか?

私が描いているのは下町で実際に出会った人々なのですが、職人の表情や手先、指先の感じがふつうの人と何か違う美しさを秘めていてそこに魅かれました。長年、同じことをずっとやってきて染みついた所作が、その人に厚みと奥行きを与えており、ただそこに佇んでいるだけで静かなオーラを放っています。

 

 

— その様子が塙さんの絵からとても伝わってきますね。最後になりますが今後どのようなお仕事、活動をしていきたいですか?

本という形にはずっと憧れていて、画集や何か企画に基づいた本を出したいと思っていますが、それに固執することもないかなと思い始めています。ただ、どんな形にしても、自分の世界観を表しているものを何か1つ作ってみたいです。

仕事に関しては、数をこなすよりも、きちんと向き合ってひとつひとつ丁寧な仕事をしたいです。
そうすれば、いずれ仕事は増えると思っています。時間のかかる絵なので、時間短縮は課題のひとつですが、それを第一に考えていると、結果的にクオリティが下がって、誰も幸せになれないと思うんです。

— すごく大事なことだと思います。今度は違うモチーフにも挑戦したいと仰っていましたね。

そうですね。祭りは毎年開かれるし、行けばその土地の屋台があるので、無尽蔵に描けるとは思います。
でも、自分が少し飽き始めているのかな?と思う瞬間があり、そうすると見ている人にもそれが伝わると思うので、違ったものも積極的に描いていきたいです。背伸びをしている感じではなく、ふとした日常を描きたいです。でもまだ屋台以外で自分がしっくりするテーマが見つかりません。みつかるまでは屋台を描いて、今は作品数を増やしたいと思っています。

 

村田恵理個展「A to Z」

今週の作家さんは村田恵理さんです。HBでは約2年ぶり3回目の個展となります。
今回は「A to Z」をテーマに、2色で描かれたシンプルな色使いとカタチが楽しい作品がずらりと並びました。
村田さんが絵付けをした陶器の販売もあり盛り沢山です。ぜひお立寄りくださいませ!

 

 

― まずは今回のテーマについてお聞かせいただけますか?

今回はテーマを2つ設けました。
ひとつは『A to Z』です。好きな物や気になること、ちょっとした出来事など、自分に関する様々な事をAからZまで、絵と文章で表現しました。

もうひとつのテーマは、陶芸作品『山小屋』です。作陶家の山田寧々さんと組んで陶芸の制作活動をしておりまして、『山小屋』はその活動名です。自分は絵付けを担当しており、今回が初めてのお披露目になります。

また、2つのテーマに共通して「色は2色まで」という技術的なテーマも設けました。

 

 

― 単語と絵はどちらを先に考えるのですか?

基本的には単語が先です。直ぐに思いつく単語もありましたが、XやZのようになかなか思いつかない単語もありましたので、そんな時は辞書をパラパラめくって「これだ!」というものを選びました。中には絵を描いてから決めた単語も数点あったりして、わりと無計画に進めました。

 

 

― 陶器作品も、素朴な風合いがかわいらしいですね。絵付けはいつ頃からやられているのですか?

昨年(2014年)の11月から「ほしいものを作ろう」という目的で制作を始め、今までに200個程作りました。

基本的に形は山田さんが自由に作り、その形にあうような絵を自分が自由に描きます。この活動はこれからも続けていく予定です。作りたい物が沢山あって楽し忙しいことになっています。

 

 

― 楽しい制作風景なんだろうなというのが伝わってきますね。今回は展示作品をおさめた冊子も作られましたが、デザインも素敵ですね。作ってみていかがでしたか?

ありがとうございます。大変だった分、もの凄く達成感があります。用紙、サイズ、綴じ方、文字スタイル、発行部数から販売価格まで、沢山の決断をしなければならず、普段使わない部分の脳味噌をフル回転させました。本というのはそういった『決断』の集合体なのだと身を以て実感しました。

 

 

— 村田さんが作るものはどれも丁寧で嬉しくなります!今後はどのような活動をしていきたいですか?

陶芸に関しては前述のとおりです。
個人の活動としては絵本を作りたいので、作ります。これは以前からずっとやってみたかった事なのですが、いざ作るとなると、お話を考えるところでつまずいてしまい、なかなか実行出来ていませんでしたので。失敗を覚悟でいろんな話を作るところから始めてみます。

そんな感じで、やってみたい事が色々あるので、ひとつひとつ楽しみながら実行できたらと思います。