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1月2021

才村昌子銅版画展「The winds awaken ―風が目覚める― 」

今週の作家さんは才村昌子さんです。HBでは初めての個展開催となりました。日々の生活での気づきや、詩や音楽から生まれたイメージを銅版画で自由に表現されました!版の重なり、インクの違いによる表情の変化もお楽しみください。

「ライオン少女」

 

Q1.今回の個展のテーマについてお聞かせください。

二十代後半での初個展以降、書籍装画や挿絵の仕事が来るようになったのですが、その後しばらくデザインの仕事に重点を置いていたこともあり、描くことを楽しめない時期が長かったように思います。完成度を求めて銅版画制作自体も精神的鍛錬のような、そんな堅苦しい感覚でした。

昨年秋にピアノリサイタルの告知ツールのデザインの依頼をいただいたき、その音源を聴きながら銅版画を制作した際、
音楽から大きなインスピレーションを得て、風が通り抜けるような自由で解き放たれた感覚が目覚めました。その時生まれたのが、今回の個展にも出展しているネコピアノ、ピアノネコ(二版の色を入れ替えて刷り上げたもの)です。私にしては珍しく肩の力の抜けた作品となり、音楽家やリサイタルのお客様にも大好評をいただきました。

今回の個展のタイトル『The winds awaken』は、 W.B.イェーツの『妖精の群』という詩の一節から付けました。
妖精が野山を通り抜ける際にThe winds awaken(風が目覚め)、「俗世の煩わしさを捨て去って、こちらの世界へ来てごらんなさい、逃げていらっしゃいよ!」と誘うのです。そのような誘いに乗って心赴くままイメージを遊ばせ制作していきたいと思い、本展のテーマ、タイトルとしました。

「ピアノネコ」

「青い少女」

 

Q2.銅版画はいつ頃から始められたのですか?また、銅版画の楽しいところなど、魅力をお聞かせください。

銅版画を始めたのは10年ほど前のことです。デザインの仕事をしていると、印刷物が大量に刷られ、瞬く間に消耗され役割を終えていくことに、違和感を覚えるようになりました。

その真逆を行くような、500年以上前の複製技術である銅版画は、描いた版を腐食させインクを詰め、余分なインクを拭き取り、一枚ずつプレス機の圧で刷り上げます。この手間暇かかるプロセスには、物事を伝達し共有することの原初の熱のようなものを感じます。深く腐食された銅版の窪みはより多くのインクを含み、紙に刷り上げるとインクの盛り上がりに光がキラキラ反射し、なんとも魅力的な物質感を湛えます。

また描くだけでなく、製版や刷りの職人的な手業にも魅力を感じます。気温や酸の濃度に左右されコントロールが難しい反面、制作過程での実験を繰り返すことで、思いもよらぬ効果や偶然の美との出会いがあり、そこからまた創る喜びや楽しさが生まれます。それから、絵の具で描いていた時の作品は売れてしまうと手元に残りませんが、銅版画は版があるので、自分用に刷れて手元に残せることも嬉しいところもポイントです。

 

「花影の記憶」

 

Q3.作品を作る上で、心がけていること、大切にされていることは何ですか?

日々の散歩の風景や音楽、自分を取り巻くモノやカタチが、断片的な光と影の合間に浮かび上がったり沈んだり、見えたり見えなかったり、その移り変わる現象の面白さを描いたり消したり、思い出したり忘れたり・・・そんなイメージの遊びを作品にしたいと思って制作しています。

 

Q4.これまでどんなお仕事を手掛けられてきましたか。

私の装画でのデビューは、単行本で林真理子さんの「初夜」(文藝春秋)で、以後は人間性の深い部分を描き出すような小説の人物像を描く依頼が続きました。

抽象的な表現は、主にCDジャケットの仕事が多いです。3歳からバイオリンをやっていたこともあり、目を瞑ってバイオリンを弾くと風景や色彩のイメージが浮かび上がるのを面白く感じてました。ジャケットの仕事は、まず音源をいただいてその音楽を聴きながらビジュアルを制作しデザインまで落とし込むのですが、子供の頃からバイオリンを弾いて感じていた感覚が、そのまま視覚表現になったような感じがします。2015年に音楽家とのコラボレーションアルバム、花影の小径~堤聡子 (ピアノ) × 才村昌子 (銅版画) の世界~(ワオンレコード)もリリースされています。

 

「樹木の夢(水玉の物語)」

 

Q5.今後やっていきたいこと、やってみたいお仕事などお聞かせください。

書籍の表紙を描き、デザインまで手がけることをやりたいと思っています。また、来年ピアノと銅版画作品集のアルバムのリリースが決定しており、銅版画の世界観をより深めていきたいと思います。詩と銅版画展などもやりたいですね。

丸山礼華個展「Liberté」

今週の作家さんは丸山礼華さんです。HBでは初めての個展開催となりました。Liberté=自由 をテーマに、色やカタチ、画材にとらわれず思い思いに描かれました。原画ならではのライブ感のあるタッチをお楽しみください!

「リベルテ」

これまでの作品は鉛筆やApple Pencilで描かれてきた丸山さん、今回の個展に向けて初めて絵の具にチャレンジされたそうです。テイスト、画材も色々と試して自由に表現してみたかったとのこと。普段はwebデザインのお仕事をされているため、デジタル操作の方がお得意とのことですが、絵の具はまだまだ表現の幅が広がりそう、と丸山さん。

 

「無題」

「顔 5 」

絵の具で描くきっかけとなったのは、鈴木成一さんの装画塾を受講されたことだったそうです。ゲラを読んで装画を描くにあたり、デジタルの表現では合わない、軽いものになってしまうのではと感じたとのこと。以前から絵の具での表現に挑戦してみたかったこともあり、題材に合う絵を目指そうと思い思い切って画材を変えてみたそうです。まだ研究中だけれど、顔を描くことが好きなので色々な顔を描くことに挑戦したいとのこと。

 

 

絵の具は苦手意識があったけれど、思っていたよりも楽しく描くことができた、と丸山さん。枠にとらわれずに、描きたい絵によってデジタルと絵の具を使い分けていきたいそうです。画材が変わっても同じ人が描いた絵とわかるような絵を目指したい、とのこと。装画、ファッション、絵本など色々なお仕事をやってみたいそうです。今後の作品も楽しみです!

 

黒崎威一郎個展「VIEW」

今週の作家さんは黒崎威一郎さんです。初めての個展開催となりました。一昨年のHBファイルコンペでは仲條正義特別賞を受賞。スクリーントーンやカラートーンを切り貼りして描かれている黒崎さん。点や線などのミニマルな要素で作られた、楽しく心地よい景色をお楽しみください!

 


 

普段から景色やモノを眺めることがお好きだという黒崎さん。日差しの角度が綺麗だなと、ぼーっと何も考えずに眺めているなんてことも。今回はそんな眺めの心地よさをテーマにされました。描かれたのは架空の景色ですが、資料となったのはGoogleのストリートビューだったそうです。気に入った景色をスクリーンショットで保存し、そこから絵をイメージ。海外の博物館の中へ入りぐるっと一周りすることもできたそうです。

 

切り貼りの手法からパースはほとんどなく、平面的でおもちゃのような描き方が特徴。水彩で絵を描いていた時期もあったそうですが、色を作りだすのが難しく、描き直せないというプレッシャーもあったとのこと。
今の手法になったきっかけは、漫画を描いていたときに使用していたスクリーントーンでした。2枚重ねるとモアレのようになったり濃淡が出せることに気づき、そこから夢中になったそうです。ペンは使わないため”描く”という行為から少し離れて楽しめる。位置をずらしたり、貼り直せるところも自分の性格に合っていた、と黒崎さん。幼い頃にレゴで遊んでいた時の感覚と近く、これとこれを組み合わせるとどうなるかな?という気持ちで描くのだそう。今回はこれまでに描いたことのなかったモチーフや、夜の景色にも挑戦されました。

 

2012年、チョイスの大貫卓也さんの審査で入選に選ばれたことが絵を続けるきっかけになったそうです。ここ数年でカラー作品も描くことが出来るようになり、ますます表現の幅が広がった黒崎さん。レコード集めが趣味だそうで、いつかジャケットを描くことが目標だそう。カラーの色はPCで着彩することもありデータ上での制作も可能とのこと。今年はぜひ絵のお仕事をしたい!と黒崎さん。今後のご活躍が楽しみです!

 

粟辻早重個展「人。っていいな~」

新年あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします!

新年のスタートを飾るのは、人形作家の粟辻早重さんです。HBでは初個展となりました。
ユニークなフォルムで描かれた可愛らしい木のお人形たち。粟辻さんの大切なご友人、ご家族がモデルです。後ろ姿もとてもチャーミングな、遊び心いっぱいの作品をお楽しみくださいませ!

 

長友啓典さん/グラフィックデザイナー
「長友さんを偲ぶ『トモさんカップ』突然の依頼で作品づくりが始まりました。とてもとても器の大きかった長友さん。何度も描き直して、試行錯誤して。今回の個展の出発点です。」

長友さんの作品づくりをきっかけに、人をモデルに作り始めたという粟辻さん。まずはご本人に写真を撮らせてもらうところからスタートするそうです。男性方は「作品を作らせて欲しいのでお写真を撮らせて」と言うと、小学生みたいに可愛くなるの!と粟辻さん。どの作品も愛情たっぷりに描かれました。

小池一子さん/クリエイティブディレクター
「長い長いお付き合いの大切な人。昨年はお会いできませんでしたね。」

 

栗原はるみさん/料理家
「なにしろ親切で優しくて。はるみさん、いつもありがとう!」

写真を撮らせて頂いたあとは、スケッチからはじまるそうです。ご自分で「似てるな!」と納得がいくまで、何度も描き直すとのこと。「でも、似ているだけではダメなの。これだけは何とも言えないんだけれど」と粟辻さん。ユニークな体のフォルムは自然と湧き出てくるのだそうです。

 

中道淳さん/フォトグラファー
「岡持ちにカメラ。出前姿で突然と現れるキッチンパンチさん。笑」

仲條正義さん/グラフィックデザイナー
「色褪せることなく、色っぽいデザインにいつもドキドキします。」

もっともっと描きたい人がいたのだけどなかなかチャンスが無かった、と粟辻さん。
見ているだけで元気が出てくる作品たちです。展示は1/13(水)まで(最終日のみ17時まで)です。お見逃しなく!