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6月2015

オビカカズミ個展「オト、オト、オト」

今週の作家さんはオビカカズミさんです。HBでは約2年ぶり2回目の個展となります。
現在、香川県在住のオビカさん。イラストレーターとしての活動だけでなく、デザイナーとしても精力的に活動をされています。今回は「音」をテーマに、オビカさんの視点でさまざまな日常のシーンを描かれました。カラフルな色合いと気持ちのよいデフォルメが楽しい作品です。ぜひお立寄りくださいませ!

 

 

 

— 今回はなぜ「音」をテーマにされたのですか?

地元のライブハウスに通い続けてて、単純に描きたいなと思いました。でも、演者さんをそのまま描くというのも違うし芸がないなと思ったので、少し違う描き方をしてみたいと思ったのがきっかけです。
そこのライブハウスは、色んなジャンルの人が演奏をしていて、地元のミュージシャンだけでなく、自分のCDを持って日本中をまわっているミュージシャンがいたりします。有名な人もそうでない人も、いろんな人が演奏しています。

絵に描いたアンプや楽器は、演奏したあとに写真を撮らせてもらいました。

 

 

— 音楽以外のモチーフもあり楽しいですね。どのように選ばれたのですか?

片側の壁はライブハウスのシーンを中心に描きましたが、もう片側の壁に飾った絵は、自分に近いものを描いてみたいと思い”食まわり”を描きました。たとえばハサミだったら、散髪や紙を切る音もありますが、自分の中にはないなと思ったのでキッチンばさみを描きました。昆布で出汁をとるときの、キッチンばさみで切る音です。

— オビカさんの生活の中の音なんですね。 作風も少し変化が見えますが、意識されていますか?

あまり考えていなかったです。テーマを決めて、そこに合うイラストを導いてもらったという感じです。

 

 

— 現在、どんなジャンルのお仕事が多いですか?

美味しいもののパッケージや商品イラストなど、食べ物関係が多いです。

— 食べ物の絵だけに絞り売り込みなどもされるのですか?

そういう訳ではないのですが、自然と見た方が引き込まれるようで、気がつくと食べ物のページを何度も見てくれるんです。描き手の食べ物好きが伝わってしまうのかもしれません。

風景の絵の省略の仕方が好きと言ってくださる方がいて、そういった絵を描く仕事も多いのですが、お弁当の包み紙になったり、お菓子のラッピングになったりと、結果やっぱり食べ物に行き着くものもありました。

 

 

—  現在も、東京での売り込みは続けられていますか?

最近は企画展に参加することがあり、そういった活動がお仕事を呼んでくれているようです。イラストレーションファイルからの仕事の依頼もありました。

— 普段の仕事で描く絵と、個展で描く絵で気持ちの違いはありますか?

個展の絵は、開いてみないとどんな反応かわからないですよね。孤独な作業でしんどいです。描いているうちに、だんだんわからなくなってしまい、客観的に見えなくなることもあります。
仕事の絵は、お題があっての絵だと思っていて、その点が根本的に違うのかなと。仕事だとラフを見てもらって、良いとか悪いとか、わりと短いスパンで反応をいただけますし。

 

 

— 実際に展示をしてみて、どんな反応がありましたか?

見てくださった方は「前と変わったね」とか「新しい感じだね」と言ってくれてほっとしています。

— お仕事の幅も広がって行きそうですね。最後になりますが、今後どのような活動をしていきたいですか?

もっと外に向けて活動したいと思っています。先日、台湾の方から反応があったので、海外での展示もやってみたいです。仕事の面では、せっかく目が向いてきたので音楽の仕事もいつかしてみたいです。

 

吉岡里奈個展「ナオミの世界」

今週の作家さんは吉岡里奈さんです。ご自身初めての個展開催となります。
今回の展示では、昭和のムード漂うさまざまなシーンを”ナオミ”という名の女性を通して描かれました。
服装や景観などが描かれているのはもちろんのこと、昭和を生きた女性の情念までもが表現されています!
吉岡さんの最新作、ぜひ見にいらしてください!

 

「立ちんぼのナオミ」

 

— 色々な個性の「ナオミ」がいておもしろいですね。今回は描き下ろしなのですか?

TISで受賞した作品以外は、個展を控えている間のここ1年くらいで描いたものです。レコードジャケットもすべてナオミのくくりで作りました。

 

「縄とナオミ」

 

 

— どんなものを資料にされてるのですか?

映画を見たり、古本屋さんで昔の雑誌を見たりしてイメージを広げています。
「ナオミ」のくくりにすると、昭和の女の人など色んなものが浮かんできました。

個展が決まってから色々なアイデアが出てきて、それを順番に描いていきました。サブカルに行き過ぎると、ひいてしまう人がいたり、お客さんを選んでしまうような気がしたので、サブカルと商業の間で成り立つ絵を目指して描きました。

 

「夜の女ナオミ」

 

— 昭和の雰囲気は元々お好きだったのですか?

元々は映画が好きで、大学では映画学科で勉強していました。映画看板が好きだったので、実際に看板職人さんのところへ行って仕事をしたいと言ったら「女子はダメだから」と門前払いでした。でも映画の絵を描きたい気持ちは強かったので、個人で描きはじめることにしました。元々絵も好きで描いていたのですが、ある時「昭和をテーマにしたお祭りのポスターを描いて」と人に頼まれたことと、自分が映画好きなのとが繋がって、こういったタッチの作品になりました。

昭和を描いていますが、本当に知っている世代ではないので、TIS公募展の際に南伸坊さんからは「宇宙人から見た昭和みたい」と仰って頂けてうれしかったです。ちょっとねじれた昭和だったり、タイムスリップした現代の人が見た昭和のようなものが描けたらと思っています。いくら資料を見ても同じようには描けないですし、本当の看板職人さんの方が上手だけど、私にしか描けない昭和っぽさが描けたらいいなと思っています。

 

「蛇とナオミ」

 

— どの作品もすごくおもしろいです。昭和歌謡など音楽もお好きですか?

好きですね。昔の映像をYou Tubeで見たりしています。今回テーマにした”ナオミ”という名前は、ちあきなおみ と 谷ナオミの2人がコンセプトの発端です。会場のBGMにはちあきなおみをかけています。

 

 

— レコードジャケットの作品は、曲名や歌手名も吉岡さんが考えられたのですか?

ジャケットはすべて一から作りました。「恋のメキシコ娘」のジャケットは、橋幸夫の『恋のメキシカンロック』からイメージして描きました。「温泉のナオミ」は以前、友人たちと計画をした箱根旅行の、旅のしおりの表紙に使った絵です。その旅行がきっかけで「箱根の女」のジャケットも思いつきました。

 

「温泉のナオミ」

 

— 本当にありそうですね。作るのもすごく楽しそうです!
吉岡さんは今後どのようなお仕事をやってみたいですか?

売り込みしても「作品を選ぶね」と言われたり「昭和っぽい本じゃないとちょっと…」と言われることが多いのですが、本の装画をもっと描きたいです。

 

山下以登個展「さよなら迷宮」

今週の作家さんは山下以登さんです。約3年ぶりの個展開催となります。
今回は画材も新たに、油彩と紙版画に挑戦されました。日頃からたくさんのスケッチやアイデアを描きとめている以登さん。今回も以登さんの頭の中をのぞいているような、不思議な世界観が広がっています。以登さんの新境地、お見逃しなく!

 

 

— 今回のテーマについてお聞かせください。

今回のテーマは「さよなら迷宮」ですが、「さよなら迷走」という感じになりました。
HBでは4回目の個展となりましたが、開催をずいぶん前に決めていた割には、なかなかテーマが定まらず、その間に鉛筆で描いたり、版画に挑戦してみたり、ボールペンだけで描いてみたり、これまで描いて来た方法とはまったく違う画法を試してみたい欲求が大きくなっていました。

今回のテーマ探しのために3月頃にボールペンでイメージラフを描いてnoteにアップしていました。
https://note.mu/itoyam/m/m0def74265284

これらをあるADの方に見せたところ、「あなたの妄想はあなた自身がおもしろがっているだけで面白くないし、
見る人に伝わらない。もっと見る人に届くようにするにはどうするかを考えるべき」とご助言をいただきました。

・例えばあなたのイメージを物語にして展示物と別にマンガにしたらどうか。
・一つ一つのモノをもっとよく見てステレオタイプではなく真摯にモノを描くべきなのではないか。
・もっと根源的な恐怖や残酷さを入れていくべきなのではないか、
・そのためにはもっと古今東西、先人の描いたものを研究するべきなのではないか。

そんな数々の課題をいただきましたが、ほとんど未消化のまま迷走した記録、それが今回の展示なのです。

 

 

— 約3年ぶりの個展となりますが、またやってみようと思ったきっかけはありましたか?

個展はだいたい2年おきくらいに定期的に行うのが理想なのですが、前回どういうわけか3年連続で個展を行ってしまったために少し多めにインターバルを取ってしまいました。そろそろやらなきゃ、という思いで決めました。

 

 

— 今回は油彩作品を中心に展示されていますが、描いてみていかがでしたか?

水や空や花を油で描いたら楽しいかもしれない。描けそうな気がする。そんな根拠のない行き当たりばったりで描いたDM作品が30年ぶりにして人生で3枚目の油絵になりました。

楽しいです(現在進行形)。技法的には稚拙なところも多いと思いますが、新鮮でまだまだ追求したいことがたくさんあります。

 

 

— 作品ファイルの他に、スケッチ集もたくさんありますね。普段、どんなときに描きますか?

さあ「これから描くぞ」というときのウォーミング・アップに描きます。電車の中とか、子どもの行事の出番時間待ちのときとか暇つぶしにも描きます。

 

— 日頃、絵を描くモチベーションを高めるため、意識して取り組んでいることはありますか?

個展寸前でとにかく描くしかないときには本もマンガも読まない、映画もテレビも見ない、ゲームもしない、で本当にストイックに修行僧のように絵に立ち向かいましたが、それは時間との戦いだったから。普段は逆でいろんな作品から心にたくさん栄養をもらいます。意識して取り組んでいるわけではありませんが、「いいな、好きだな、素敵、こんなの真似してみたい!」とか「こんな表現できてすごい、悔しい、なにくそ私だって」とか、そんなのがモチベーションになっています。

 

 

— 以登さんの研究熱心な姿勢はいつも素晴らしいなと思います!最後になりますが、展示をしてみた感想をお願いします。

幕を開けるまでの過程が七転八倒だったせいもあり、内容にまったく自信が持てないでいたのですが始まってみれば観た方に楽しんでいただけているという想像以上の手応えがありうれしい誤算です。

尊敬する大先輩に「とにかく絵が好きなのだけは伝わってくる」「キミは自由でいいねえ」と言っていただけことが何よりの励みとなっています。

北澤平祐個展「ねこのように ゆっくり やすみたい」

今週の作家さんは北澤平祐さんです。HBでは初めての個展となります。
広告や装丁、CDジャケット等幅広くご活躍されている北澤さん。今回の展示作品はすべて手描き(下描きなしのフリーハンド)で、ペンとカラーインクで描かれています。愛猫との楽しい日々を、身の回りのモチーフを通して楽しく描かれています。会場では北澤さんの画集やオリジナルグッズも好評販売中です。ぜひお立寄りくださいませ!

 

 

— まずは今回のテーマについてお聞かせいただけますか?

身の回りのものを描くことをテーマにしました。
今まであまり「物」を描いた事がなかったので、空想上のものではないものを描いてみよう!と。
そこに、去年亡くなった猫のお話を交えて描いています。

— 線がとても綺麗ですね。展示されたものはすべて原画ですか?

はい、すべて手描きの原画です。仕事の絵は基本デジタルで、普段描く絵も緻密に下描きをしますが
今回は下描きなしで、一発勝負でやってみようと思い描いてみました。

 

「 ねこのように  おしごとの  じゃまをしながら  やすみたいⅡ 」

 

 

— 下描きなしですか?!描き込みも多く見応えがありますね。今回展示したような、ペン画の写真を北澤さんのTumblrで「朝練」として更新していましたよね。おもしろいなと思って拝見しておりました。朝練はどういった内容なのですか?

今回の展示のためにやっていたものなのですが、HBさんでやらせていただくということで、イラストレーションの基本的なところに立ち返ろうと思い始めたことです。普段、空想上のものばかり描いていたので、目の前にあることだけを描いてみようと思いました。毎朝30分、描ける所まで描いて時間になったら辞めるということを、1~2ヵ月続けていました。ペンで何か身の回りのものをひたすら描くという内容です。手が慣れて来た頃、今回の展示作品を描きはじめました。去年の年末くらいは、本当に描けるかドキドキしていました。

— 今回、展示作品で描かれているものも、北澤さんの身の回りにあるものですか?

ゲーム機は歴代持っていたもので、今はもう手元にはないのですが、その他はすべて身の回りのものを描いています。

 

「 ねこのように  あわに  まみれて  やすみたい 」

 

—  北澤さんは16年間アメリカにお住まいだったそうですが、何歳から何歳までいらしたのですか?

10歳から26歳まで住んでいました。大学院までいて、その後日本へ戻ってきました。

— その間も、すでに絵のお仕事はされていたのでしょうか?

向こうでは大学の先生をやったりしていました。日本に来てからイラストレーターを目指しました。

— こちらに戻られてからは、どのように活動をはじめましたか?すぐ売り込みに行かれたのでしょうか?

最初の半年間はアルバイトをしていて、それからWEBサイトを作りました。その後、なぜか海外の方からお仕事を頂けて、それを見てくださった日本のクライアントさんからまたお仕事を頂けたんです。最初の駆け出しの頃、3件営業に行き絵を見てもらったのですが「君が描いているのはイラストレーションじゃないよ」と言われて、それからはあまり行かなかったですね…。

— 海外でのお仕事と日本のお仕事で違いは感じますか?

そんなに違いはないかなと思います。ただ、日本だと打ち合わせでお会いして、そのあともお付き合いをさせていただいたり、またお仕事を頂けたりすることがあります。海外だとメールやスカイプでのやりとりだけで終わってしまうので、1回きりということが多いですね。

 

「 ねこのように  はだしで  やすみたい 」

 

— 様々な媒体で北澤さんの作品をお見かけしますが、お仕事が途切れなくなったなと感じたのはいつ頃でしたか?

いくつか波があったのですが、講談社さんの装丁で絵を使ってい頂いたことがひとつの転機となりました。
その本を見た方からまたお仕事をいただけて、次へと繋がって行きました。本は見てくださる方が多く、仕事に派生するんだなと感じました。
でも、2年前にぱったり仕事が来なくなったときがありました。そのときに個展をやってみようと思い、それが1年前の代官山での個展でした。そのときに色々な方が見に来てくださって、回復しました。絵を見せることの大切さを感じました。

 

「 ねこのように はなに  かこまれながら  やすみたい 」

 

 

— 色んな方に会ってお話ができるというのが大きいですよね。最後になりますが、今回個展をしてみていかがでしたか?

たいていの場合、絵を描いた途端に興味を失ってしまうので、その絵を人に見て頂くのは申し訳ないなと思うのですが、 初日も雨の中、週末で楽しいことがいっぱいあるのに、たくさんの方にお越しいただいて大変ありがたかったです。もっと頑張らないとな!と思いました。

 

ゴトウヒロシ個展 新聞連載小説”あなたが消えた夜に”挿画号外

今週の作家さんはゴトウヒロシさんです。HBでは約1年ぶりの個展となります。
今回は、ゴトウさんが毎日新聞夕刊の連載で挿絵を描かれていた、『あなたが消えた夜に』(作・中村文則)の単行本出版にあわせ、描き下ろし作品や連載時の挿絵に色を加えられた新作を展示しております。今にも動き出しそうな登場人物たちが会場でお待ちしております!ぜひお立寄りくださいませ!

 

 

— 連載を終えられたときはどんなお気持ちでしたか?

さみしかったです。連載中はずっと小説の世界観の中にいたので、現実社会に戻っちゃう感じでさみしかったですね。

— 特にこのキャラクターに感情移入した、ということはありましたか?

主人公にはそんなにでもなかったのですが、場面場面で立っているキャラクターにはそれぞれに感情移入していました。

 

 

    

 

— 登場人物のキャラクター作りは、作者の中村文則さんとも打ち合わせをされたのですか?

基本的には任せられました。「こういう感じで描きます」と伝えて、「大丈夫です」という感じのやりとりでした。

— ワンシーンごとに、実際にモデルさんを撮影して描かれていたそうですが、絵の構図などは写真を撮る際に決めていたのですか?

絵コンテでまず決めて、そのあとポーズをつけて撮ってみます。あっちがいい、こっちがいいとか言いながら、1シーンに対して5ポーズくらい撮ります。今後こんなカットが出てくるかも、と予想しながら撮影したり。モデルさんは10人くらいでまわしていました。

 

 

— 連載中、一番大変だったことは何ですか?

たいしたキャラクターじゃないと思っていた人物が、後半メインのキャラクターになっていたことです。
登場人物も多かったので、自分で相関図を作っていました。色々な人が色々なところで繋がっているお話なので、この人とこの人がどういう関係にあるのか、誰の知り合いでどう繋がっているのかとか。でも誰が怪しいのかわからないんです。みんな怪しく見えてきたりして…

— 犯人を知らずに描いていくのはスリリングですね…!ゴトウさんにとって、連載の挿絵を描く一番の醍醐味はなんですか?

連載の中盤くらいで、去年個展をした際に「新聞連載、見てますよ」とか「切り抜いてます」とか、わりと声をかけていただけて嬉しかったです。みんなちゃんと夕刊も見ているんだなと思いました。手を抜かずに描いていたので、新聞連載にしては記憶に残るものになったのではと思います。作者の中村文則さんとも、メールで頻繁にやり取りをしていました。しかも毎回、感想までくださって嬉しかったです。中村さんは「ゴトウさんとのコラボ作品ですから」と言ってくれたので、自分もそのつもりで描いていました。

 

 

— 作家さんから直接感想をいただけるのは嬉しいですね。
ゴトウさんの、昨年の油彩画の展示も素晴らしかったですが、今回は見せ方も雰囲気もまた違ってかっこいい展示でした。展示されてみていかがでしたか?

今回やってみて、久しぶりに帰ってきた感じがしました。去年は去年でおもしろかったのですが、ああいう作品を見せていいのかどうかもわからなかったです。やり応えがあるということでも、今回の方が自分としても安心感はあります。でも今回は、油彩画が見たかったという方もいらしていましたね。

ずっと人物画を描いていたのですが、新聞連載をやるまで煮詰まっていました。 これ以上、進化しようがあるのかな?と。でも今回やってよかったです。新聞連載の仕事もよかったし、展示もやってよかった。やっと終わったという感じです。