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8月2023

宮岡瑞樹個展 「ファジー」

今週の作家さんは宮岡瑞樹さんです。HBでは初めての個展となります。

デザイン事務所勤務を経て、2022年からイラストレーター・グラフィックデザイナーとして

書籍や広告を中心に活動されています。

日常の中に織り成される穏やかな時間、漂う空気、微細な感覚…

普段見過ごしがちな瞬間に立ち返るような美しい作品を是非会場でご覧ください。

一部作品はオンラインショップでもお取り扱い予定です。

http://hbgallery.shop-pro.jp/

Q1.

個展タイトル「ファジー」には宮岡さんのどんな思いがこめられているのでしょうか。

今回の展示のテーマについてお聞かせください。

 

心地よい空間にいる時に体がその空気に馴染んで溶け込むような感覚になる時があり、そのイメージを表現したいと思いました。

ファジーは「ぼやけた」「境界が曖昧」といった意味なので、テーマを一言で表している言葉でした。

 

Q2.

イラストレーターとグラフィックデザイナーの両立を目指し、昨年からフリーランスで活動をされているそうですね。

今回のDMもご自身でデザインされています。

イラストレーターとグラフィックデザイナー、2つの領域を横断することを選択された背景には

宮岡さんのどのような経験、考えがあるのでしょうか。

 

大学を卒業しエディトリアルデザイナーとして働き始めた頃は、イラストレーターになることは全く考えていませんでした。

デザイナーの立場からイラストレーションについて詳しくなりたいという思いから、

作品や作家さんの勉強をしていく中で描きたい気持ちが湧いていきました。

SNSに投稿した作品に少しずつ反応をもらえるようになりイラストレーターとしても活動する事ができるようになりました。

 

 

Q3.

装画やポスターなどのイラストレーションを描くこと、

書籍やフライヤーのデザインを制作すること。

各々の作業において心構えや意識の点に違いはありますか?

宮岡さんのこだわりなどもあればお伺いしたいです。

 

デザインの場合は決まったスタイルなどは持たず依頼内容に相応しい表現を心がけていますが、

イラストレーションの場合はスタイルに要望がある事がほとんどなのでその違いは意識しています。

要望をしっかりお伺いして、期待以上のものを制作して喜んでいただきたいという心構えは同じです。

 

Q4.

宮岡さんの震えのある線は

見る人の心の琴線に触れる繊細さもありながら

様々な解釈を許容するようなおおらかさも感じます。

線を描かれる際に、ご自身で意識されていることはありますか。

現在の表現になった経緯などもあれば併せてお聞かせください。

 

自分のイメージを表現できる線を探している時に、

たまたま手が震えて縒れてしまったか弱い線が魅力的に見えたのがきっかけです。

直線や曲線の形が崩れないように気をつけてノイズを足すような感覚で描いています。

 

Q5.

イラストレーターとグラフィックデザイナー

各々の立場で今後手掛けたい仕事や

自主的に取り組みたい活動などはありますか。

宮岡さんの今後の展望をお聞かせください。

 

自分の絵を使って自分でデザインする機会は少ないのですが、とても楽しいですし両方の立場を活かせると感じています。

文芸作品で装丁と装画を一緒に担当させていただくことが今一番の目標です。

夏季休廊、オンラインショップお休みのお知らせ

8月10日(木)~8月23日(木)まで、夏季休廊とさせて頂きます。

それに伴いまして、HBオンラインショップの発送業務もお休みさせていただきます。
休廊期間中にいただきましたご注文やお問い合わせについては、
8月24日(金)以降に順次対応させていただきます。
商品到着が遅れますことご了承くださいませ。

ご不便をおかけ致しますが、どうぞよろしくお願いいたします。

 

HB FILE COMPETITION vol.33 鈴木成一賞 田渕正敏個展「Signal」

HBファイルコンペvol.33 受賞者展ラスト!第6週目の作家さんは
鈴木成一さんの大賞を受賞された田渕正敏さんです。

多数の技法を駆使し、複雑な試みが垣間見える見応え抜群の内容でありながら、
鮮やかなブルー一色で統一された夏らしい涼やかな展示となりました。

会期中、付箋に手書きで作品の解説を加えていくなど
田渕さんらしいアイデアも必見です!ぜひ会場でご覧くださいませ。

一部展示作品はのちほどオンラインショップでもお取り扱いいたします。
http://hbgallery.shop-pro.jp/

 

 

Q1.
鈴木成一賞 大賞受賞、おめでとうございます。
受賞を知った時はどんなお気持ちでしたか?
鈴木成一さんに選ばれた感想もお聞かせください。

 

A1.
応募作は2年前に描き始めたシリーズで、大きな絵の変化を感じてコンペティションに応募することを決めました。
10年以上のキャリアがある中でこの変化がどのように受け取られるのか期待と不安がありましたが、とても早い段階でピックアップして頂けたことがとても嬉しかったです。

鈴木成一さんは、自分の読書体験と密接に関わるグラフィックデザイナーで小説に魅了されるきっかけとなった東野圭吾「白夜行」「幻夜」のブックデザインをはじめ
本屋に通うということが習慣になった学生時代に出会った書籍が多く、装幀・ブックデザインという言葉を意識し始め装画を描くことを志す時期と重なります。

そうして小説の装画を描きたいと思ってイラストレーターになったものの、10年間で数冊のチャンスしかありませんでした。
ファイルコンペ受賞のお知らせを頂いた時はとても嬉しかったのですが、ここから仕事に繋げるまでが大変だということが分かっていたので
受賞の4日後に鈴木成一デザイン室から装画の依頼を頂いた時にようやくやりたいことに辿り着いた思いでした。

鈴木さんから装画についての絶対的な指示は無く、とにかくゲラを読んで描いてみて下さいということを言ってくださるので、こちらとしては思いきりフルスイングで取り組めています。

 

Q2.
応募されたファイルを作成するにあたり、
工夫されたことや意図されたことなどはありますか?


A2.
まずは1年で様々な方向性の絵20枚を完成させるということに苦心しました。一つ手応えがあると似たものを量産してしまいがちなので、
そのスタイルを毎度避けたり壊したりしながらまだ試みてないことは何かを考えながら描きました。
20枚を完成させた後、今度はB4ファイルという形式での見せ方に苦戦しました。
B2サイズで描いている原画をB4サイズに縮小して見せなければならないので縮小することで消えてしまうディティールを時間をかけて補正しました。
横位置の絵は見開きで見せるとインパクトがありますが、ファイルの構造上真ん中で真っ二つに割れて下地の黒が見えてしまうので
絵の中心に重要なモチーフがある絵はセレクトから外しました。


Q3.
2023年はHBの受賞展の前に既に3回個展を開催され
アートフェスティバルへの参加やポップアップショップにも出店されています。
クライアントワークも数多く、非常にお忙しい日々の中で
同年開催の1つ1つの個展に対し、どのようにテーマやポイントを棲み分け、
準備を進めてこられたのでしょうか。

スケジュールを完遂させるために、田渕さんが日頃意識されていることや、
生活習慣などもあればお伺いしたいです。

A3.
去年から今年にかけてコンペティションで良い結果が残せたので、このタイミングしか無いと考え
仕事は多少セーブしながら出来る限り作品制作に時間を割きました。

3回の個展にはそれぞれやりたいことがありました。

初回の「アルバム」@ギャラリー・ルモンドでは改めてイラストレーターとして自己紹介をする。
2回目の“Tags”@Diegoではギャラリーという空間全体を使って青い絵が一つの作品として見えてくるように展示をする。青を印象付ける。
3回目の「青いfoods」@恵文社では過去作と近作を同列に並べて絵の変化を確認する。
東京以外で個展をするのが初めてだったので、その可能性について考える。
以上のような事を考えていました。
立て続けに個展をするのは体力も精神もすり減りますが、初回以降は全て新作で挑むということを辞めたので何とかなりました。スケジュール管理はとても苦手な上に無謀な構想ばかり思いついてしまいます。
さらに日常生活も大切にしたいという欲張りなので、何とかかんとか平日の日中に仕事も作品制作も収めるようにやりくりしています。

子供が成長し以前よりも時間に余裕が出来たことも作品制作に大きく影響しています。
妻の提案でそれぞれが平日の内の1日は仕事に限らず夜遅くまで自由に過ごしても良いという取り決めになり
僕は水曜日をその日に充てて大量の作品を制作をすることが出来ました。
ほとんどの作品がこの「水曜日」に描いたものなので個展のタイトルにしようかと候補にしておりました。

 


Q4.
グラフィックデザイナー松田洋和さんとのユニット“へきち”での活動、アトリエでの読書会など
「イラストレーション」に対して課題を投げかけるような発信をされており、その視座の高さに感服します。
田渕さんはどのようにご自身の視野を広げ、洞察力を高めてこられたのでしょうか。


A4.
作品集や個展を企画する時にはいつもグラフィックデザイナーの松田洋和に相談してきました。

僕は見切り発車でとにかく何か描いてから考えるというような絵が多く、飽きてしまうのもとても早い、
描いてしまったらあまり自分の絵に関心が無いので管理もとても雑になります。
それが松田のおかげで作品をそれぞれ本にしてアーカイブしたり、アトリエで保管したり出来る様になったので松田様様です。
松田がデザインした僕の作品集は12年で60タイトルを超えていて、僕が描くものを1枚たりとも溢さないという姿勢に励まされます。
松田はペインティングも素描もフラットに捉えられていて、素描は下描きとしか捉えていなかった僕の視点を
素描のまま痕跡とするという見せ方もあるというように変えてくれました。
今回の展示でも普段は捨ててしまうようなメモ書きや落書きまで全てスキャンしてスケッチ集として販売しています。
イラストレーションについては仕事以前にただファンであり続けています。
未だに話題といえばあのイラストレーターが良いだの、新しい人出てきただの、あの装画誰だろうね〜などと学生の頃から変わらないままです。
学生の頃はインターネットもまだ主流でなく雑誌の影響力が強かった。
玄光社のイラストレーションという雑誌と書店に並ぶ書籍の装画だけが僕のイラストレーションの知識の全てでした。
その頃見た誌上コンペTheChoiceの世界観が目に焼き付いていて大きく影響されています。
グラフィックとしてのイラストレーションはもちろん、そのシステムにもとても興味があります。
絵を描いてそれが商業として成り立つシステムが当然のように世の中にあって、イラストレーターが職業として認知されている。そのことにずっと驚きを持っています。
そこにはもちろんグラフィックデザインやイラストレーションの分野の先人達の尽力によって信頼を得ていった歴史があります。
そういったイラストレーションを取り巻く歴史に興味を持つと自ずと視野を広くする必要に迫られるのかも知れません。
HBGALLERYでの展示もイラストレーションの歴史の一端に触れる思いで嬉しく思っております。

 

Q5.
今回で青のイラストレーションの展示は一旦区切りとされるということですが、
何か新しいテーマがあるのでしょうか。
田渕さんの今後の展望やビジョンをお伺いできますか。

 

A5.
作品で試みてきたことが仕事で求められ始めているので、そこに注力したいと思っています。いつ仕事が来ても対応できるようにと様々にシュミレーションして作品を作るのですが、
いざ依頼が来ると自分の想像を遥かに超えたテーマが降りかかって来ます。
サッカーが好きな息子が「PKは練習できない」という話を聞かせてくれました。
基礎は練習できるけれど本番の緊張感は再現出来ないということらしいです。
装画も同じ様に本番でみなぎる想像力がとても待ち遠しくそれがやりがいになっていると思います。

今後の展望としてはもう少し青い絵でやり残しを感じているところをゆっくり進めながら、

振り子が大きく揺れるように異なるベクトルの作品を作ってみたいと思っています。
鈴木成一さんには「そろそろこのシリーズに飽きる頃だと思うから、次回作に期待します」と僕の資質を見抜かれていたので
期待に応えてまた面白い絵が描きたいです。また10年かかるような気もしますが。