HB Gallery

Blog

9月2012

もとき理川個展「飄飄 (ひょうひょう) 」

今週の作家さんはHBでは2回目の個展となるもとき理川さんです。
カッティングシートを切り絵の様に用い、エッジのきいたタッチが魅力的なもときさん。
今回はモノクロ一色に統一し、落ち着きの中にも不思議な世界が感じられる作品が並びました。

 

 

— ではまず今回のコンセプトをお聞かせ下さい。

前回HBで個展をしたときは、どちらかというと可愛い世界観でまとめたので、
今回は大人な雰囲気にしたく思い、モノクロ1色でまとめてみました。
内容も「内田百聞」の作品をモチーフにしています。

— いつものもときさんとはひと味違う、渋い世界観になっていますね。

最近ではビジネス書や実用書のお仕事を頂いていましたが、
文芸の方にも仕事を広げていけたらと考えていましたので
この個展がきっかけでお仕事ができたらと思い、
昔から好きだった内田百聞の世界を表現しようと制作しました。
内田百聞の独特な不思議な世界観が、私の省略した絵と合うのではないかと思います。

— モノクロとはっきりしたベタ面がぴったりですね。独特の雰囲気を醸し出しています。

内田百聞本人も不思議な方で好きなんですよ。
例えば大阪までの交通費を借りて行っても、現地についたら特に用がないからと帰ってしまう人なんです。
そのエピソードは 内田百聞がてっちゃん(鉄道マニア)という理由もあるのですが、
とても不思議な魅力を感じるんです。

— 今回モノクロで制作されていかがでしたか?

意外にも皆さんの反応が良いのがとても嬉しいです。
カラーでないと飽きられてしまうかな?と思っていたので安心しました。

— この個展用にZINEも制作されたのですね。

個展をする時は何か1つ新しい事にチャレンジしてるんです。
ただ絵を並べるだけではなく、工夫したものを見てほしいという考えがあるので。

— 来た方を楽しませたい気持ちがよくわかります。
また、もときさん自身も楽しい方ですね。イラストレーションのお仕事が順調なのも、
もときさん自身の人柄が反映されているのではないかと思います。

ついつい話しすぎてしまう性格なのですが…笑
小さい頃からおしゃべり好きで、しゃべりすぎと通信簿に書かれる子供でした。笑
でも、どこに行っても自分からしゃべりかけるようにしています。
イラストレーターさんは、プレゼン勝負な場面も多いじゃないですか。
ここ一番な時に話せる性格で良かったなと思います。

 

 

— カッティングシートって意外な画材ですよね。この画材を使おうと思ったきっかけはなんですか?

カッティングシートを使うまではアクリル絵の具を使用していましたが、
絵の具の厚みが少しあって、エッジの効いたタッチをイメージしていたんです。
アクリルだと何度も塗り重ねないと厚みが出ませんし、
角が丸くなってしまい、パキッとならないので困っていたのですが、
そんな時世界堂でカッティングシートと出会い、私にぴったり!と思い、使用するようになりました。

— 描きたいイメージのもと、画材を探していたのですね。
個性を出す上で、自分とぴったり合う画材探しも大事なんだなと
もときさんのイラストレーションを見て思いました。

— 最後に、今後の活動でやってみたい事はありますか?

先ほども申し上げたように、文芸のお仕事をしてみたいです。
また、カッティングシートはシールになっていますし、
大きいサイズも購入できるので、壁にはったりするお仕事も楽しそうですよね。
他にはない事をしてみたいという気持ちがあります。

 

 

前回とは裏腹に、大人でピリッとした持ち味が魅力な今回の作品たち。
新しい挑戦を恐れず、楽しんでいる姿がとても素敵な作家さんでした。
今後のご活躍も楽しみにしております。

 

 

インタビュー / HBstaff 土生はづき

三溝美知子個展「日々のひかり」

今週の作家さんはHBで3回目の個展となる三溝美知子さんです。
今回は普段の生活で目にする、身のまわりの物を中心に描いています。
作品のようにやわらかな印象の三溝さん。さっそくお話を聞いてみました!

— HBでは3年ぶりの個展ですね。今回、展示をされていかがでしたか?

あっという間に3年も経っていました。
前回は「波」という自分の好きなモチーフを描いていたのですが、
その後は何を描きたいか分からなくなった時期がありました。
今回は「もっと身近なものを描いてみたら?」という唐仁原さんのアドバイスをもとに
モチーフをみつけていき、今回のような展示になりました。

— 作品に描かれているのは三溝さんのお家にあるものですか?

そうですね、普段使っているものや庭に咲いているお花だったり、落ちていた小枝だったり…
あとは友達と出掛けたカフェのものなどです。どこにでもあるようなものかなぁと思います。
あまり特殊なものにならないよう心がけました。
写真を見て描く事もあるのですが、物の距離感や空気感が自分に伝わりづらいので、
できるだけ実物を見て描くようにしています。
静物はこれまであまり描いたことが無かったのですが、
描いてみたらすごく楽しかったです。描かず嫌いだったんだなぁ…と。(笑)

— それは新境地ですね!どのモチーフも雰囲気がよく出ています。

「きれいな光だな」と思うモチーフを選んで描いているつもりだったのですが、
もしかしたら、思い入れのあるものだから光が特別に見えていたのかも知れませんね。
どっちが先なんでしょう…

— でも、どれも大切にされている物なんだろうなというのが伝わってきます。
イラストレーターを目指そうと思ったのはいつ頃ですか?

以前、アニメの背景を描く会社で働いていたのですが、拘束時間が長く大変な仕事でした。
だんだんと自分の絵も描きたいと思うようになったのですが、制作時間が取れず…会社を辞めようか迷っていました。
HBギャラリーの存在を知ったのはその頃です。
展示をしたいと思い作品ファイルをギャラリーに送ってみたところ「ぜひ展示を!」とのお返事が。
もし断られたら会社に残ろうと思っていたので、ようやく辞める決心がつきました。
なので、HBギャラリーは特別な場所ですね。
それからは売り込みにも行き、直接編集者さんに作品を見て頂いた事でお仕事にも繋がりました。

—  HBがひとつのきっかけになっていたんですね。うれしいです!
これから挑戦したいこと、目標はありますか?

今「こどものとも」で絵本を製作中なのですが、それをきっかけにもっと絵本のお仕事が広がるといいなと思っています。
今後の目標としては、自分に出来る事を見据えて、生活のなかに寄り添うような絵を描いていきたいです。

— 好きな絵本作家さんはいますか?

林明子さん、飯野和好さん、ささめやゆきさん…など。たくさんいます!
海外の作家さんだと、M.B.ゴフスタインさんが好きです。自分にはない画風の作家さんに憧れがあります。

— 三溝さんの絵本、完成を楽しみにしています!すてきなお話をありがとうございました。

三溝さんは毎日必ず絵を描く時間を作るとおっしゃっていました。
「好きな音楽を聴きながら絵を描くのがいちばんの幸せなんです」とも。
短時間でもいいから自分の絵に触れ向き合い、
描きたいものがいつ現れてもいいように準備しておくのだそうです。

普段見過ごしてしまいそうな日常の風景も、丁寧にすくいあげる三溝さん。
作品からはそんな三溝さんの優しい眼差しを感じます。
ギャラリーはきょうもやわらかな空気に包まれています。ぜひお越し下さい!


 

 

インタビュー / HBstaff 桑原紗織

ミヤタチカ個展「ゴーゴー・シネマ・パラダイス」

今週の作家さんはHBで2回目の個展となるミヤタチカさんです。
線のみで描かれたシンプルな画風ですが、
ミヤタさんワールドたっぷりの楽しげな展覧会となりました。
今回は映画をテーマに制作されています。

 

 

— 前回の個展と同様、ミヤタさんの個性がたっぷり詰め込まれた
個展となりましたが、前回と比べていかがでしたか?

私はHBで個展がしたいという思いがあったので、
前回の初個展では舞い上がってしまいまして(笑)
今回は前回と比べて、少々落ち着いて制作できたと思います。

— HBを一つの目標としていたのですね、ありがとうございます。
今回も楽しげな作品が並びましたね。たくさん描いているのに、さっぱりしていてとても見やすいです。

今回はポスターも作ってみました。日頃からラクガキをしていますが、
その中から何点かピックアップして、画面上に構成し、ポスターを制作しました。

— とてもかわいらしいポスターですね。他の作品もそうですが、
ミヤタさんの好きなものとか、シーンなどがよくわかります。

今回映画というテーマにしたのも、私の好きなものやシーンを描きたいと思った事がきっかけでした。
映画にすれば全部好きなものが描ける!と思ったんです。

— 映画をテーマにして、面白かった点と難しかった点などありますか?

楽しげな場面などを描くときは面白いですね。
「素直な悪女」のブリジッド・バルドーの踊るシーンはとても楽しかったです。
テンションがあがってきます。全然似てないんですけど。
あとはひげのおじさんとか、形がとても描きやすくて好きです。ついつい描きたくなってしまう。
逆に難しかった点は、邦画やシリアスな映画は全然筆が進まなかったです。
寅さんとか七人の侍とか。映画に集中してしまいまして…(笑)
あとはカッコいい顔立ちの人は描きにくいです。クリント・イーストウッドとか 。

 

 

— 前回の個展から、何かお仕事のお話はありましたか?

前回の個展終了後、雑誌のお仕事を頂きました!
また、その雑誌を見た人からお仕事を頂いたり、
あこがれのアートディレクターさんに個展のDMと冊子をお送りしたところ、
その方のご紹介でお仕事を頂いたり!とても嬉しかったです。

— 初個展でその成果はすごいですね!でもミヤタさんとお話をしていて、
とても明るく楽しいですし、一緒にお仕事をしてみたい、と思うようなお人柄ですね。

 

 

— ミヤタさんは今のご活躍まで、どのような活動をされていましたか?

イラストレーターになるため福岡から上京して来たのですが、
最初は安西水丸さんの塾( コム・イラストレーターズ・スタジオ)で絵を学んでいました。
その時水丸さんにいろんなタッチの絵を見てもらったのですが、
「線画がいいね」というお言葉を頂き、
「私も線の人になりたい!」という気持ちからこのタッチになりました。
以前唐仁原さんに絵を見て頂いたとき、
「3年は色を塗らずこの線で描き続けるといいよ、そうすればミヤタさんが線画の人、というのか定着するから」
というアドバイスをいただき、仕事以外の絵は全部黒線です。あれから2年ですので、 あと1年で色が塗れます!

— ミヤタさんの楽しげなイラストレーションの裏側に、こんなドラマがあったとは!絵を描く事は修行ですね…

— では最後に、今後やってみたいお仕事などはありますか?
また、将来どんなイラストレーターさんになりたいですか?

雑貨のお仕事や、CDジャケットなど挑戦してみたいですね。
私はエレファントカシマシが大好きで、一緒にお仕事がきたらとても嬉しいです。
あとはずっと昔からやってみたい仕事は、ティッシュボックスのパッケージです。
水丸さんからの教えですが、「皆に憧れられるイラストレーターを目指すのが大切だ」
とお話されていた事があり、私はそこを目標としています。
見てて楽しくなるような絵をずっと描いていたいです。

 

連日午前中からたくさんのお客様がお越しになり、大盛況の展覧会となりました。
ついついププッと笑いたくなってしまう、ミヤタさんのイラストレーション。
今後も存分に楽しませてくださいね!

インタビュー / HBstaff 土生はづき

新井ユキコ個展「怖い箱(誰かの見たもの)」

今週の作家さんは、8月に『おめでとうおばけ』(大日本図書)という絵本を出版された新井ユキコさん。

新井さんはHBファイルコンペVol.9で廣村正彰さんの賞を受賞された、実力派のイラストレーターさんです。

今回はできたての絵本の原画と、2010年に出版された新井さんの著書『誰かの見たもの』(大日本図書)という

怖いお話を集めた児童書の原画が展示されています。

「怖い」をテーマにたくさんの作品が会場に並びました。


— 初めて絵本作りに挑戦されたんですよね。どのような経緯で出版されたのですか?

ずっと絵本が作りたいなぁと思っていたのですが、娘がまだ幼かったこともあり、

なかなか踏み出せないでいたんです。娘が中学2年になって、そろそろ落ち着いてきたかな?というタイミングで

トムズボックスの絵本のワークショップに通うことになりました。

 

— 絵本の制作で難しかったことはありましたか?

ワークショップでは毎回、編集者の土井さんにラフを見て頂いたのですが、

「この絵のタッチは子供向けではないね」とか「このシーンだけを描きたかったんじゃないかな?」という

アドバイスに、ラフをひっこめたくもなりました…(笑)

普段の挿絵などの仕事は、絵を一枚で完結させたり美しさを重視するようなところがありました。

絵本の場合、物語の状況を表現しなければならなかったり、

子供にも伝わるような絵作りをするということは初めてだったので、

慣れていないこともあり難しかったですね。

土井さんは「こんな絵もあるよ」といつもいろんな作家さんの絵を見せてくださりとても勉強になりました。

毎回、ラフもどんどん変化していきました。

 

ここで新井さんが、『おめでとうおばけ』のラフ画を見せてくださいました。

ほぼ絵本に近いかたちで、細かな描写で描かれています。

このラフ画を出版社に持ち込みし、絵本の出版につながったそうです。

 

— すごい!こんなに細かいんですね。ラフ画でも絵本になりそうなくらいですね。

すごく大変でした!紙の上で死ぬかと思いました…(笑)

『明日のジョー』のように真っ白に燃え尽きた感を、絵を描く作業でも感じるとは…でもすっごく楽しかったですよ!


— もうひとつの著書、『誰かの見たもの』は連載を本にまとめたそうですが、こちらの本についてお聞かせ下さい。

『小説すばる』で6年くらい連載していたもので、文章も自分で書いています。

普段から怖いお話が大好きで、いろんな人に怖い話を聞かせてもらってお話を集めていったんです。

それを1冊の本にしたいと思い、知り合いの方を通じて出版社に持ち込みに行きました。

この本の挿絵は連載時の絵ではなく、出版にあたって書き下ろしたものです。

コーヒーを使って着彩し、線は鉛筆で描いています。線を書くのはすごく楽しいですね。

 

— 絵を拝見していると、楽しそうな様子がすごく伝わってきます。今後やってみたいお仕事や、描いてみたいものなどはありますか?

そうですね…これからはもっともっと仕事の幅を広げていきたいです!

また、これまでの雰囲気とは真逆のすっごくかわいいものを描いてみたいなぁとも思ってます。

たとえば…お姫様やフリフリのドレスなんかおもしろそうだなと思うんです。

今は絵本制作ですべて出し切った感じがあるので、まずは一息ついて、

自然と見えてくるもの、描きたいものを待ちたいです。

 

新井さんの作品には「怖い」の中にもユニークさやかわいらしさ、

不思議さ、美しさ…などたくさんの魅力がありました。

鉛筆の線の美しさや、色彩の鮮やかさは原画ならではです。

怖くて不思議なことが大好き!という作家さんの気持ちが存分に伝わる展示となりました。

 

インタビュー / HBstaff 桑原紗織