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1月2015

小泉寛明個展 「落描きになんとか耐える女たち」

今週の作家さんは小泉寛明さんです。HBでは初めての個展となります。
セツ・モードセミナーで約9年間、絵の先生をされていた小泉さん。
流れるような線画で、さまざまな表情の女性を描き、37点の見応えたっぷりな展示となりました。

 

 

— 小泉さんは、これまでも多く展示をされてきたのですか?

今回で2度目です。セツ・モードセミナーに入ってから3年目くらいに、渋谷のハチ公近くの
純喫茶のような、高級なソファのある薄暗い店内で、絵にひとつずつ照明が当たるような、
そんな場所でやったことがあります。

— 雰囲気の良さそうなお店ですね。
今回、いろんな女性を描かれていますが、服装なども華やかで何かイメージなどがあるのでしょうか。

セツ時代、デッサンやクロッキーを1ポーズ7~8分で、繰り返し鉛筆で描いていて、
生徒同士で交代でモデルをしたり、長沢さんが選んだモデルなど、色んなタイプの男女を描きました。
特にイメージはしていないですが、顔を描いているうちにだんだん服装も決まってきます。
タイトな体の線が出た方が女っぽい雰囲気が出るのではと思いますね。
なんとなく今でも、電車に乗ってる人や、街を歩いている女の人が気になって、服装を観察したりしてます。

 

 

— 自然と描きたいものが描けたという感じでしょうかね。画材は何を使われていますか?

赤と黒のPILOTのドローイングペンです。ずっと黒い色で常識的に描いてきたのですが、
ある時、口紅を描くときに赤いボールペンで描いてみた。他の線も全部赤で描いてみたら、おかしかったけど、
水彩でほかの色をつけてみると、それなりに華やかになって。それから赤色でも描くようになりました。

 

— 実在する女性というよりは、イメージの中の女性なのでしょうか?

そうですね。セツ時代、女の人からは相手にされず、モテませんでしたのでね。
いじわるな目で見て描いているというか、優越感だったり、不安だったり軽蔑したような顔だったり。
今回描いた絵も、恥ずかしいからあまり見せたくないという気持ちと、でも見せたいという気持ちとのジレンマがありました。
金色の家具や大きなソファなども実際に持っている訳ではないんです。
もちろん資料などは見ますが、憧れがあったり、欲しいと思うから観察する。無いものねだりのようです。

 

 

— なるほど、憧れからきているのですね。
小泉さんは絵のお仕事もされていたそうですが、どのようなお仕事が多かったですか?

『小説現代』や『オール讀物』や川上宗勲のポルノ小説ではよく挿絵を描いていました。
ファッション誌でもカットを描かせていただきました。
その頃は、ファッションイラストレーションという言葉は無く、”スタイル画”と呼ばれていたんですね。
2~3色のオフセット印刷で中原淳一や長沢節のスタイル画が載っていて、その後に活版印刷でモノクロのテキストページや写真が載っているというような雑誌が多かったんです。

昭和40年代でしょうか、その頃『anan』が発売されました。
今は普通にあるグラビア印刷を最初に使ったのがananでした。
写真の技術が進んだことで、節さんは「写真に負けないような絵を描く作家が出てくれば」や
「使うような絵を描く人がいなくなった」と、よく仰っていましたね。

 

 

—  どんどん写真へ移り変わる時期を経験されたのですね。貴重なお話をありがとうございます。
最後になりますが、展示をしてみた感想をお聞かせ頂けますか?

見に来た人みんなが褒めてくれて、自信になりましたし、もっと一生懸命やれば良かったなとも思います。
節さんの「女を描くことは、時代を描くこと」というお言葉が、どういうことなのかなといつも思っていました。
時代って何なのだろうと、今でも惑わされています。
洋服の形を描けば、時代を描いたことになるのかというと、そういうことではないし。

平成の始め頃、お金にならなくても描いていられる、そんな興味が燃えていました。
人に頼まれていなくても、褒められなくても描いていました。
友人にも絵は見せていませんでしたが、「展覧会はやらないの?」と声をかけてもらったりして、
みんなに励まされ、今日に辿り着いたかなと思います。

 

 

山本温個展「木版画 懐かしの風景」

今週の作家さんは山本温さんです。HBでは初めての個展となります。
“懐かしの風景”をテーマに、月島、佃、築地、浅草…など、東京の街をはじめ
全国各地の古き良き街並みが丁寧に描かれています。
6版で刷られた味のある繊細な色合いは、木版画ならではの温かみがあります。 ぜひ原画をご覧いただきたいです!

 

 

— まずは今回の展示テーマについてお聞かせ頂けますか?

懐かしい風景が好きで、ここ5年間くらいで実際に行った場所を描いています。
旅先で撮影した写真がたくさんたまっていたので絵にしたいなと思いました。

— 旅行にはよく行かれるんですか?

旅行が好きで国内も海外も好きなんですが、今回は日本の風景を版画でやりたいなと思いました。

 

 

— 学生時代から版画を勉強されていたそうですが、いつ頃からこのタッチになりましたか?

ここ3年でやっと自分の色を掴めたかなと思います。色決めで何度も逡巡していました。

— 色調を整えるのが難しそうですが、とてもきれいな色合いですね。
下絵も拝見させていただきましたが、この時点で完成度が高く驚きました。

下絵に命をかけています!というくらい下絵に完全に合わせて、それを見ながら版画を制作しています。

 

 

— 温さんの想う木版画の魅力とは何ですか?

木の温もりを感じるところや、水彩画では表せない独特な質感が好きです。
和紙と木と水がなじんで、自然な形が作られていく感じがいいなと思います。

 

— 繊細な色合いがいいですね。温さんは古いものもお好きだそうですが、例えばどんなものがありますか?

建物が好きですね。歴史ある建物や商店街などに温かみを感じます。
東京にいると、古いものがどんどん減ってしまい、新しいものが増えているなと肌で感じます。
そういった風景を絵に残していけたらなと思っています。

 

 

— 今後、やってみたいお仕事などありますか?

旅先の風景画をずっと描いてきて自分のテーマでもあるので
そういうものを描く仕事ができたら幸せだなと思います。
田舎の観光ポスター などぜひやってみたいです。
今回の展示で、自分の絵を拡大させてポスターにしてみたことでその気持ちが強まりました。
航空や鉄道関係の企業にも売り込みをしたいです。

 

 

— 温さんの絵で観光ポスターや、旅行ガイドがあったらいいですね。
最後になりますが、今回個展をしてみていかがでしたか?

1人で制作しているときは苦しくて、終わらないんじゃないかと思ったりもしました。
1年かけて、こうして作品を並べる瞬間を待ち望んで制作をしていたので、今はすごく幸せです。

— 素敵な展示をありがとうございました。 今後のご活躍を楽しみにしております!

 

久保田美穂個展「Life」

今週の作家さんは久保田美穂さんです。HBでは初めての個展となります。
家族のいる風景や、日常の何気ない一場面を切り取った久保田さんの作品。
ご自身もお二人のお子さんをもつお母さんです。
色数をおさえすっきりとした作風ですが、描き方がとても丁寧で温かみが感じられます。
ぜひ原画をご覧いただきたいです!

 

 

— まずは今回の展示テーマについてお聞かせいただけますか?

みんなのぞれぞれの日常だったり、大きな出来事じゃなく、何気ない時間が幸せで、
それを絵に表現したいなと思いました。
自分も子育てをしている立場なので、自分と同世代の女の人や、
働く人、子育ての人、それぞれの時が流れているのを表現したいと思いました。

 

 

— 久保田さんのご家族もモデルになっているのですか?

モデルは家族を含め、色々な人で、空想も入っています。
自分が働いていた時のことなどを、こんな感じだったかなと思い出しながら描きました。

 

 

— 普段、お子さんと居る時間が多いと思うのですが、制作時間はどのようにとられていますか?

2人子供がいるのですが、夜、寝かせた後や、両実家に上の子、下の子をそれぞれ預けたりと、
まわりの協力がなかったら展示は出来なかったなと思います。

個展までの期間が長かったので、集中するのも難しかったです。

制作中、唐仁原さんに作品を見て頂く機会もありました。
雲の形や木の形など、アドバイスして頂き、再度描き直したものを見てもらうと、
「この方が良くなったよ」と言っていただきました。
同じ絵を描き直したり、色も変えてみることは普段あまりしていなかったのですが、
やってみると勉強になりました。

 

 

— これまで書籍関係のお仕事やCDジャケットのお仕事をされていますが、依頼はどのように来ることが多いですか?

知り合いの方にお声掛け頂いたり、イラストレーションFILE  WEBを見てくださった方など様々です。
今回のタッチではまだあまり仕事をしたことがないので、何か繋がるといいなと思います。

 

— 久保田さんの絵は色合いに特徴がありますね。何色で描くか決めているのですか?

最初になんとなく決めて、だいたい4~5色で描くことが多いです。
パソコン上で色を試してから描いたりします。

 

 

— 今回は人物や風景だけでなく、静物だけを描いた作品もあり新鮮でした。

せっかくの展示の機会だし、違うものも描いてみようと思いました。
自分の中で気分が変わって楽しかったです。
唐仁原さんには「モノを描くときは省略しちゃだめだよ」とアドバイスを頂いたので、
普段のタッチよりはリアルになりました。

—  どの作品も丁寧で見ていて安心します。最後になりますが、今後どんなお仕事をしていきたいですか?

生活や家族、ライフスタイルに関する雑誌のお仕事だったり、本の装画を描きたいです。

— とてもぴったりだと思います。今後のご活躍を楽しみにしております!