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7月2014

藤枝リュウジ賞 松下まり子個展「微笑むを犯す」

HBファイルコンペvol.24 大賞展4週目は藤枝リュウジ賞を受賞された松下まり子さんです。

リボン、ブラウス、ドレスなどを着飾った少女たち。
目や口は強くぬりつぶされ、笑っているのか怒っているのか、見る人にゆだねるような不思議な魅力を放った表情をしています。どの作品も圧倒的な存在感で、松下さんの創り出す独特な世界に強く引き込まれます。
力強い油彩の筆致も、ぜひ間近でご覧いただきたいです。

 


 

 

— この度は受賞おめでとうございます。
今回の展覧会タイトル「微笑むを犯す」にはどのような意味が込められているのですか?

描いていてあとから気づいたことなのですが、よく見ると笑っているような顔が多いなと思いました。
でも普通のにっこりした「微笑む」というよりは微笑むという悪事を働いているような、
我を忘れて何かにとりつかれているような微笑み、それで「微笑むを犯す」だなと。

— イメージのもとにはどんなものがありますか?

イメージの窓口になるものは、昔の白黒写真だったり絵だったりします。
それを入り口にはするものの、制作の途中ではゴチャゴチャとした暗くて汚いところから別のものを取ってきて、
最終的に大きなものになって出てくる、といった感じです。

 

 

— このようなモチーフは、いつ頃から描きはじめられたのですか?

心の中にイメージはずっとありましたが、チョイス展の後から描くようになりました。
途中描けない時期があって、普通のデッサンを一からやり直していたときもありました。
その後、油絵で描いてチョイスに応募したらポンッと受賞してしまいました。

— チョイス展の受賞作も拝見しましたが、色味が変わってきた印象をうけます。

ぼんやりとした色味から、だんだんと強くなってきました。
真っ赤だったり、真っ黒だったり。サイズも大きくなってきました。もっと大きいのが描きたいです。

— 迫力が増してきていますね。

遠慮が無くなってきたなと思います。別にいいんだわ、といった感じ。
どろどろとした表現になっていったり、ここまで形が変わるとまた具象に戻ると思います。
お化けみたいな方にいったり、肖像画へいったり、交互に変化していくのかなと思います。

— 紫色と黄緑色を組み合わせているところなど、松下さんご自身の色が出ているなと感じます。

紫色が引き立つように他の色を考えます。紫色のために黄緑を使っていたり。
自分のなかで、紫色は肉や肉体、生き物の色というイメージがあります。
茶っぽい紫色や、青っぽい紫色など、紫色の範囲で生きものや人間ができているような気がするんです。

 

 

— 松下さんの絵は、一見怖いけれど可愛い感じもする。不思議な魅力がありますよね。

自分自身では可愛いと思って描いています。
キティやマイメロディなどが一般的な「可愛い」だとするならば、
同じような感覚で、自分の絵を可愛いと思っています。
ちょっと壊れていたり、ズレている。乱暴な感じや、怖いくらいのものが好きで
ギャーッと言ってきそうな感じが可愛いし、愛着を感じます。

絵のなかでは血が流れたり、怪我をしている。
けれど自分では可愛いと思って描いているので全然怪我をさせたくないし、とても大事にしています。
可愛い衣裳を着て、大事にされている感じにしたいんです。やっつけたい、とは思っていない。
そこでバランスがとれていると思っています。

男の人にはよく「怖い絵」と言われます。

 

 

— 今後、イラストレーターとしてお仕事をしていきたいというお気持ちはありますか?

イラストレーションとして使っていただくのは全く抵抗はありません。
元々ある絵を使ってもらうのはかまいません。

ただ依頼されると絵が萎縮してしまって自由に描きづらくなります。
絵を描くとき、えのぐと私がトランスして遊んでいる感じになるといい絵が描けます。
絵の方がなりたい顔や形とかが、一緒に遊んでいると偶然出てくるんです。

 

 

 

 

— 楽しそうですね。その感じは絵からも伝わってきます。
最後に、今後どのような活動をしていきたいですか?

私は自分の絵を、四角いキャンバスを油絵の具で塗るといった行為や、モチーフにしても
わりと正統派のペインティングだと思っています。その正統派のペインティングで世界の最高レベルまでいきたいです。
スタイリッシュでインテリアみたいになるのではなく、古くさいこと、絵の一番いいところまで質を底上げしていきたい。そのためには大きい絵、物体の量が必要だと感じます。何年かやっているとまた変わるかもしれませんが
奇をてらうようなことはあまりせずに、絵を描くことをまじめにやっていくと思います。

あと、黒い壁に展示をしてみたいです。真っ暗なところに何かが出てくるような、そんな展示をやりたいです。

 

副田高行賞 舞木和哉個展 「Remember you take out the garbage in the morning. 朝にゴミを出すことを忘れないで」

HBファイルコンペvol.24 大賞展3週目は副田高行賞を受賞された舞木和哉さんです。

普段はフリーランスでデザインのお仕事をされている舞木さん。
絵は毎日欠かさず描かれているそうです。
そんな日々のたくさんのスケッチからうまれた、20作品が見事に大賞に輝きました。
流れるように描かれた線画と、そこに添えられた英文とのバランスがここちよいものばかりです。

 

 

 

— この度は受賞おめでとうございます。昨年、初めてコンペにご応募くださったそうですが、きっかけは何でしたか?

知り合いが「応募してみたら?」と勧めてくれたことがきっかけになりました。

 

— 受賞の知らせを聞いたときはどんなお気持ちでしたか?

めちゃくちゃ嬉しかったですね。賞をとれるとは思っていなかったので。
ファイルを預けることで、絵を見た方からお仕事をもらえるのかな?という気持ちでした。

 

 

— 副田さん以外の審査員の方からの評価も高かったです。
今回展示された作品は、普段から描きためていたものなのですか?

日頃、描いているスケッチから選んでいます。
仕事をしている合間に描いたものや、電話で話している最中の、無意識な落書きからうまれたものなど
量だけは山ほどあります。量をこなした中から、光る何かがあるのではと思っています。

 

 

 

— 舞木さんの絵は達者な感じがするなと思っていました。普段デザインをされているということもあり、
そういった部分も影響して絵に厚みが出るのかなと。

デザインの影響はありますね。ポスターのようにキャッチコピーをいれたくなります。
絵を描くのは感覚的に、タイトルや作品に書く文は知覚的に、
右手が書いたり左手で書いたり、図のような感じでいったり来たりしているかんじです。

それを形に、と思ったらこうなりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

— 線は何で描かれているのですか?

線は外壁用のインクで描いていて、背景はリキテックスでシルクスクリーンで刷っています。
場所によってはインクが薄かったり、厚みがあったりして味があるのが気に入っています。

 

 

— 舞木さんの絵は、生活空間にあったら素敵だろうなと思います。

ありがとうございます。以前、IDEEさんで展示をやらせていただいたことがあったのですが、
その時も、自分が家にあったら飾りたい絵はどんなものだろう?と思って描きました。
家に置きたくないものは描きたくないなと。

 

— 今後、どんなお仕事をしてみたいですか?

ニューヨークのACEホテルに絵を描いてみたいです。
そこは、選ばれたアーティストが客室の壁面にペイントができるというホテルなんです。
3年程ニューヨークに住んでいたこともあるので、何かつながったらいいなと思います。

 

— いいご縁があるといいですね。最後に、アピールしたいことなどありましたらお願いします!

気に入った絵があったら部屋に飾って欲しいです。
キャンバスも廃材を利用して作っていますし、絵も無意識からうまれる排泄物みたいなもの。
今回の展示に限らず、自分のテーマはいつも「朝にゴミを出すことを忘れないで」なのです。

 

審査員の副田さんと。

日下潤一賞 大高郁子個展「NEO南画」油性マーカーで描く「瀟湘八景図」+α

HBファイルコンペvol.24 大賞展二週目は日下潤一賞を受賞された大高郁子さんです。
昨年開催された「マジック山水図」展につづき、今回はその第2弾の展覧会となりました。

一昨年のHBファイルコンペの作品づくりに向けて描かれていたという山水図シリーズ。
さらに発展させたものを、昨年11月の個展「マジック山水図」で発表されました。
その後もテーマは継続され、新たな作品20点をまとめ、その年のコンペで見事に日下潤一賞に輝きました。
夢中になれるテーマをみつけ、長く向き合った結果が大賞へと結びついたようです!

今回の受賞展では「南画」をテーマとし、前回よりもさらに大きな作品にも挑戦。
画材は変わらず、太い油性のマジックインキで描かれています。大高さんの描くポップで親しみやすい南画は、
見たことのない楽しさに溢れています。ぜひ会場に足をお運びください!

 

 

— 日下潤一賞受賞おめでとうございます。
今回のテーマ「南画」とはどういったものなのでしょうか?

中国の「南宗画」が由来となっていて、池大雅、浦上玉堂などの一派の人たちによって
日本風にアレンジし、水墨画で描かれたものが「南画」と呼ばれています。

前回はマジックインキの 「マジック」をタイトルにも付けていたのですが、
「手品」という意味にもとれて伝わりにくいこともあり、今回は名前を変えたいなと思っていました。
もう少しひねって、”新しい”という意味で「NEO南画」と名付けました。

— 今回は、金色の紙にも挑戦されたのですね。

最初は金箔を貼ろうとおもっていたのでしたが、あまりにも高価なので断念し、
パッケージなどに使われる平和紙業の「桂」という種類の紙を選びました。

 

 

掛け軸にした絵は、京都の表具屋さん(北岡技芳堂)で軸装をしていただきました。
わら半紙を水でぬらしたあと、和紙で裏打ちして、乾かすのですが、
完成まで2ヶ月くらいかかるんです。
職人さんも、更紙(わら半紙)に油性マジックで描かれた絵を軸装することは初めて。
できるかな?と面白がってくださり、試しに1枚別に描いたものでまず実験してから、「本番」を作ってくれました。

日本画を描かれる方でも、最近は軸装をされる方はあまりいらっしゃらないようです。

 

 

— 掛け軸、とても迫力がありますね。もうひとつのテーマ、「瀟湘八景図」とはどんなものですか?

「瀟湘八景図」という画題が元々あり、漁村の夕焼けの風景や、秋の月の風景など、
八つの風景で構成されている作品です。これまでにもいろんな人がその画題で描かれていたそうで、
「じゃあ私も描いてみよう!」と思い挑戦しました。

— そのお隣、6連の大きな作品もすごい迫力です!ご自宅で描くのは大変そう…。

これは「西湖」を描いているものなのですが、前回の展示から「大きい絵を描きたい」と思っていたので
やってやろう!という気持ちで描きました。縦長の更紙、6枚に絵を描きそれを繋げて1つの作品にしました。
家の中では並びきらないくらいの大きさで、描いているうちにだんだんと分からなってくるんです。
1枚で見せるよりは、部分部分で楽しめるような、見る人が遊べる場所をみつけていただけたらなと思っています。

 

(↑「西湖」のほんの一部。)

 

— 作品集もとてもおもしろかったです。内容が濃く、見応えがありますね。

前回の展示作品をまとめたいなと思い、本を作りました。
中身はとりあえず並べていけば自分でデザインが出来たのですが、
表紙がデザイン出来ない…と思い、どなたかやってくださらないかなと。
そこで、HBスタジオの白村さんに打診してみたところ、快く引き受けてくださりました。
中身も、絵のまわりの空きや、ノンブルなども微調整してもらえ、最後にぴしっとした形にしていただけました。

唐仁原さんにお見せしたところ、坊主の絵を気に入ってくださり見開きのページに載せることに。
最初に自分で考えていた構成は淡々としたものでしたが、
そこへ「裁ち切りで絵を載せるのはどう?」と面白くしてくださったのは唐仁原さんでした。

 

 

— たくさんの方に見て頂けるといいですね!最後になりますが、今回受賞をされていかがでしたか?

まだ実感がなく不思議です。賞を頂くということが初めてだったので、未だにおろおろしています…
嬉しいという気持ちをどう表したらいいのかもわからず。

日下さんには、絵を軸装するアイデアをいただいたり、色を使って描くことを勧めていただいたりと
色々な窓を開けてくださいました。自分ひとりでは考えつかなかったので、感謝の気持ちでいっぱいです。

—  すてきなお話をありがとうございました。本当におめでとうございます!

 

審査員の日下潤一さんと。

 

特別賞展 特別賞6人によるグループ展

今週からファイルコンペvol.24の大賞展が始まりました。
7月4日から8月27日まで、受賞者の作品を展示致します。
第1週目は、特別賞に輝いた受賞者6名によるグループ展です。
今年も、力作揃いの熱い展覧会となりました!

 

ファイルコンペvol.24  特別賞受賞者 (敬称略)
日下潤一特別賞 / 中村隆
副田高行特別賞 / 坂元斉
藤枝リュウジ特別賞 /正一
鈴木成一特別賞 / 小池ふみ
永井裕明特別賞 / スガミカ
仲條正義特別賞 / マスダユタカ

 

応募総数 735点 の中から、目の肥えた審査員方に選ばれた6名の作家さんたち。
技法も作風も異なる、多種多様な作品が一堂に並び
見応えのあるおもしろい展覧会になりました。どの作品からも、絵に対する熱い想いが感じられるものばかりです!

展覧会初日には、審査員の鈴木成一さんがお越しくださいました。
作品の感想を伺ったり、アドバイスをいただいたりと、なんとも贅沢なひとときでした!

 

 

審査員の鈴木さんと特別賞の皆様

 

 

 

中村隆さん

中村さんHP http://homepage1.nifty.com/dog_house/

 

 

 

小池ふみさん

小池さんHP http://fumikoike.blogspot.jp/

 

 

 

 

坂元斉さん

坂元さんHP http://salon.io/sakamotonoboru

 

 

 

正一さん

正一さんHP http://showichi.jimdo.com/

 

 

 

マスダユタカさん

マスダさんHP http://homepage3.nifty.com/germa-ge-28/

 

 

 

スガミカさん

スガさんHP  http://micapower.exblog.jp/

 

 

 

HBファイルコンペVol.25の募集もはじまりました!
応募要項・小冊子はギャラリーで配布しております。

今年のイラストレーションは、そで山かほ子さんに描いて頂きました。
http://hbgallery.com/compe.html
みなさまの熱い20点、お待ちしております!

 

菅野博子個展「こんなときもあったよね!」

今週の作家さんは菅野博子さんです。HBでの個展は約2年ぶり、今回で10回目となります。
福島県のいわき市を拠点に、コンスタントに制作を続けられています。

今回は、菅野さんのまわりの大切な人々をテーマに描きました。
若い頃のお父様のお写真や、ご自身の幼い頃、また菅野さんの大切な人たちを描いています。
お写真を見ながら、こんなときもあったんだ、と感慨深い気持ちになったという菅野さん。
丁寧に描かれた人物は、菅野さんの思い入れがこもった温かい表情ばかりです。

 

 

— 今回は人物をたくさん描いていますね。菅野さんご自身の絵もありますね。

去年父親が亡くなって、古い写真を整理していたら若い頃の写真がたくさんでてきたんです。
モノクロだったりもして、こんなときもあったんだと感慨深いきもちになりました。
父親の若い頃や自分の幼い頃の写真を見て描いたり、地元のいわきに住んでいる大好きな人たちに
写真を撮らせてもらって描きました。

身近な人だと想いがあるので、知っている人を描くとやはり違うなと思いました。

 

 

— 菅野さんの絵を見ているとあたたかい気持ちになります。
2年ぶりの個展はいかがですか?

余裕をもって前もって描けましたし、準備もできたのでよかったです。
新作の絵本も完成しました。
数えてみたら、今回が10回目の個展だったんです。時は流れましたね。
1回目の個展の際、「映画の気分」という本を出して、
10回目で「うちのミィ〜」が出せました。絵本をつくるのはやっぱり楽しかったです。
個展をすること自体も楽しみで、 わたしはHBで個展をするのが好きなんだなぁと思いました。

 

 

— 10回目とはすごいですね!ギャラリーも、菅野さんのように継続してがんばります!
新作の絵本「うちのミィ〜」が可愛らしいですね。全てご自身で作られたのですか?

最初は講談社の絵本新人賞に向けて描いたんですけど、そのままボツになって…
でもせっかくだから立派なものに!と思い、自費出版で制作しました。

 

 

— 菅野さんの絵は、絵本にぴったりですよね。

ありがたいことに、秋口に絵本が出る予定なんです。
岩手県の久慈市を舞台にしたお話で、取材にも行かせて頂きました。
月に1度、避難訓練をしていたという、とある幼稚園のお話なのですが
その訓練があったから、2011年3月の震災当日はみんな無事に逃げることができ、
助かったという内容です。

以前、HBでの個展を観に来てくださった岩崎書店さんにお声掛けいただいて
お仕事につながりました。 絵を覚えてくださっていたんだ、と思い嬉しかったですね。
HBで個展をやると、見に来てくださる方が多いのでやりがいがあります。

 

 

— 実際にお仕事になってよかったですね。菅野さんの絵本、楽しみです!
絵本のお仕事も控えていてお忙しくなると思いますが、今後どのようなお仕事がしたいですか?

自分ではそう思っていなかったのですが、
デザイナーさんの方々によく「絵本が向いてるよ」と仰って頂けているので、
絵本のお仕事がいっぱいくると嬉しいです。

—  菅野さんの益々のご活躍を楽しみにしております!絵本が完成しましたらぜひお知らせください〜