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2月2013

小林愛美個展「minimal」

今週の作家さんは、HBでは4年ぶり3回目の個展となる小林愛美さんです。
HBファイルコンペVOL.15での、鈴木成一さんの大賞受賞を機に作品のスタイルを確立されました。
今回は「minimal」をテーマに、限られた色数とカタチだけで室内と屋外を表現した作品が並びます。

 

—  どの作品も静かな佇まいで、心地のよい作品ですね。
構図を決める際はラフやスケッチなどから始めるのですか?

まず頭のなかに色のイメージがぼんやりと出てきて、
それに合ったカタチを、本番の紙にとっていくという描き方をしています。
H6くらいの鉛筆でうすく線を引いては消し…を繰り返して徐々に構図を決める作業に。

色を塗る段階ではマスキングテープを使っていきます。
色の配合は大切で、1色目を塗り、2色目を塗る段階で気持ち悪い配色になってしまうと、
もうその絵は描き直しますね。色数が少ないので、違う色が出てしまうと
調和のレベルに達していないなと感じるんです。
カタチや色でバランスをとる事を最終的な目標にしています。

 

 

— 細いラインがところどころに適所に描かれているなと感じます。
すごく繊細な作業ですよね。

日常の中でもこんなに緊張する作業はないというくらい、
澄んだ気持ちで集中しないと、なかなかできない作業です。
自分なりに、線を引く決め所のようなものはあります。

— 小林さんの作品は、日常の景色を描いてるようにも見えますし、
心象風景のようにも見えます。何か資料などを見て描かれるのですか?

もともと、写真や実際の風景を見ながら描くというのはできなくて…。
頭のなかにとっておいた風景や、記憶をたよりにして描きます。
そういったものが混ざり合った風景なので「どこかで見たことのある景色」
のように感じるのかもしれません。

— なるほど。小林さんの作品からどこか郷愁のようなものも感じるのは
そういった理由からなのでしょうね。
話しは変わりますが、これまでに影響を受けたものなどありますか?

好きなものは、戦後のアメリカの抽象表現やモダン建築、ミニマルアートに関心があります。
1940年代末の作品は好きでよく見ますね。音楽はエレクトロニカをよく聴いています。

 

 

— 今、読んでいる本や好きな本がありましたら教えてください。

心理学の本をよく読みます。
表面に見えているものの裏には何があるんだろう?と考えたりするのも好きで。
たとえば俳優さんだったら、この演技をするためにはどんなことをしてきたんだろう?

どんな背景があったんだろう?とか。裏を知り、表面に出てくる結果のようなものに
リンクした感覚を得ると楽しさを感じます。映画のメイキングを見るのも好きです。

 

 

— 興味深いですね。表現を生業にする人にとって、人間の心理を知ることは
とても繋がりが深いように思います。
最後になりますが、今後の目標などお聞かせ頂けますか?

私の絵には人物も出てこないですし、物をわかりやすく描くという作風でもないので
イラストレーションとして成立するのが難しいかなと思うことがあります。
けれど、わずかな色や単純なカタチでも、コミュニケーションとして通じるような表現力を
これから磨いていきたいと思っています。最近、念願だった雑誌のお仕事を頂けたので、がんばってみよう!と。
アニメーションにもいつか挑戦して、絵を動かしてみたいです。

— すごく楽しみです!すてきなお話をありがとうございました。

 

すっと心に染み入るような色合いや、丁寧な手塗りの質感が見る人に安心感を与える小林さんの作品たち。
表面の完璧さを極めつつ、さらに上の目標である”コミュニケーションのできる絵” に向かう探求心。
おだやかな口調の陰には、自分との静かな戦いに挑むような芯の強さを感じました。

上路ナオ子個展「この、べつのいきもの。」

今週の作家さんは、HBでの展示は3回目となるイラストレーターの上路ナオ子さんです。

今回は上路さんのお友達が書かれた「この、べつのいきもの。」という物語から、
たくさんのイメージをふくらませ、たくさんの線画が生まれました。
拡大した線画を、壁一面の布にプリントするという新たな手法で、
これまでの展示会場とは一風変わった空間が広がります。

展示DMから、すでにワクワク感が伝わって来ていました。
広げるとA3サイズのポスターになっていて、絵柄や言葉からも
「なにかおもしろい事が起きそう!」と感じられた方も多かったのではないでしょうか。
その期待を裏切らないのが上路さんのすごいところ!

 

わ!なんだろう!

 

夢のなか?

 

飛んでいるみたい!

会場に置かれた存在感のある3冊の本は見応えたっぷりです!

物語の中を散歩しているかのような空間と、
既成概念にとらわれることなく自由な発想で描かれた生きものたち。
どこまでも飛んでゆけそうな、夢いっぱいの世界につつまれました。

ぜひとも体感していただきたい上路さんの展覧会は20日(水)のPM5:00までです。
みなさま、お見逃しなく!

そで山かほ子個展「TOWN」

今週の作家さんはHBでの展示は初めてとなる、イラストレーターの
そで山かほ子さんです。
そで山さんはアクリル絵の具で人物やアンティークの小物、アメリカの看板
や風景等を多く描かれている作家さんです。
カットした木の板に描かれたオブジェの様な作品も多く制作されており
人、もの、看板などさまざまなかたちが壁面に並びました。

ー今回の展示のタイトル「TOWN」という事ですが
まずは展示のコンセプトや、そで山さんの好きな街について
お聞かせ頂けますか?

私は旅行が大好きで、旅先の建物や風景、人を見るのがすごく好きなので
それをテーマに出来たらなぁと思っていて、今回「TOWN」にしました。
特に街並は決めず、今まで行った思い出の場所を描こうと思っていたんですが
最終的には去年の11月に行ったニューヨークを中心に、行った事のあるロスの
風景やアメリカの昔のアンティークのパッケージや看板をイメージして描いた
作品等、アメリカが中心の展示になりました。

ー木の板をカットした作品、すごくかわいいです。
制作される様になったのはいつ頃からですか?

ありがとうございます。
2年位前から制作をしていて、きっかけになったのは
ロスの田舎の方で見た古い看板を再現したくて、制作し始めました。
ーどの様に作られているのですか?

まずベニヤ板の上にざっくりとかたちとって、自分で板を電動のこぎりで
カットしてから色をのせています。

ーカラフルですがPOPすぎない色づかいも印象的です。
制作される時に心がけている事はありますか?

ありがとうございます。
色作りが一番好きなので、色にはこだわっています。
チューブの色は絶対そのままは使わず、必ず好きな色を作ってから塗るよう
にしています。

ー制作されていて大変だった事と楽しかった事はなんですか?

やっぱり大変だったのは、ベニヤをカットしている作品は
板を切るところから制作が始まるので、行程が多く計画を
していたよりも時間がかかってしまった所ですね。
でもこれだけまとまって作品を作るきっかけにもなりましたし
旅の写真を振り返ってみながら「あの時こんな事があったな」
と思い出しながら描いていたので制作は本当に楽しかったです 。

ー最後に今後の目標や描いていきたいものなどありましたら
お聞かせ下さい!

今回アメリカを中心に描いているので、違う国にも挑戦してみたいな
と思っています。
木の作品ではまだお仕事をした事がないので、紙に載せたお仕事もいつかしてみたいです。
装丁等のお仕事もしてみたいですね。
後はグッズや雑貨への展開も出来たらいいな、という風に思っています。
CAHON(*1)の制作も頑張って続けていけたらいいですね。

 

ー木の作品も今後の展開や発展がとても楽しみです!
作品を見ていると、そで山さんならではの雰囲気がありながら
その街の空気やにおいが感じられ、とても楽しい気持ちになります。
これからのますますのご活躍が期待されるそで山さん、
今後の活動も楽しみにしております !

 

(*1):アクセサリーブランド「MION」とのコラボブランド
http://cahonist.blogspot.jp/

野見山 響子個展「だまりこむ/ものたち」

今週の作家さんは、HBでは2年ぶり3回目の展示となる野見山響子さんです。
野見山さんはゴム版画で、穏やかでどこか懐かしい風景画を多く描かれていましたが、
今回は無音の世界に佇む「生物」と「無生物」を描かれた25点の作品が並びました。

ー 始めに、今回の展示のコンセプトをお聞かせ下さい。

今までは風景を描く事が多かったのですが、今回は一つ一つのオブジェクトや
アイテムなど、単品のものに対して集中して描いてみようと思い、
一つの画面に対して一つのオブジェクトを構成する、というかたちで画面を作っていきました。

ー野見山さんの作品は版画という技法に対して質感が独特ですが、
画材や最終的な定着方法についてお聞かせいただけますか?

木版画などは、版木が固いところの不自由さを楽しんで描くような所があると
思うんですけど、ゴム版はすごく柔らかくてコントロールがしやすいので
続けるうちにどんどん自由度が上がってきて、細かい作業が出来る様になってきました。
やる事が細かくなるにつれて、なるべく印刷の方にも出したくなってきて。
グレートーンを細かく刷ったようなものをくりかえして銅版画の点々のようなものが
つくれる様になったりと、どんどんゴム版画自体がおもしろくなってきて、
点々を綺麗に出したいとか意識しながら作るようになりました。

具体的には刷ったものをスキャニングして、製図用の半透明のフィルムに出力をし、
裏から着彩をして、同じ版を印刷したケント紙を裏に重ねています。

ーだからちょっと浮いたような不思議な見え方がするのですね。
イラストレーターになられたきっかけやゴム版画で制作される様になった
きっかけはなんだったのですか?

イラストレーションをお仕事にしたいと思ったのが10年位前で、
それまではイベント会社で看板を作っていました。
看板制作に携わるうちに絵を描くのが楽しくなっちゃって、
脱サラという感じですね。
それまでは年賀状でちょこっと描くぐらいだったんですけど、
イラストレーションやるなら、なにか自分のものをもった方がいい、
と当時の先生に言われまして、だったら版画がいいなと思い制作し始めました。

ーすごくいろんなモチーフを描かれていますが、どれも静かでとても素敵です。
モチーフはどの様に選ばれているのですか?

今回は「無生物」と「生物」両方を描きたくて、タイトルの通り、
生き物なのに音がしない、道具や無生物なのに、なんとなく生き物の気配がする、
この二つのテーマで描くいうのは決めてました。
後は並べたときに大きくなったり小さくなったり、横にいったり、
とりどりなリズムが生まれたらいいな、と思い大きさやかかたち、属性みたいなものが
なるべくバラバラになるように選びました。

ー黒ベタと白のコントラストがきれいで、印象的ですが
意識的に心がけている事はあるのですか?

今まで風景などを、隅から隅までもので埋め尽くす様に描く事が多かったのですが
画面全体を見渡す事が出来なくて、全体として少しちらかった印象がありました。
なので今回は画面全体で黒白はっきり出る様にしようと思い「黒は黒」「白は白」となるべく迷わずに
彫っていこう、というのは気をつけていました。
グレートーンが使えなかった時、彫るか彫らないかの2択だった時の方が画面がきれいだったな、
というのがあって今回はそれを意識的にやってみようと思いました。

ー最後に今後されてみたいお仕事や目指している
イラストレーションがあったら教えてください!

文章と共にあるイラストレーションを描いていきたいな、というのはあります。
ストーリーみたいなものが感じられるイラストレーションを描いていきたいですね。

 

穏やかな口調で優しくお話しをして下さる姿が素敵な野見山さん。
静かに、でも微かにいろいろな気配を感じる作品達が並び
とても素敵な展示となりました。
ゴム版画という手法を用いながら、独自の表現方法で進化し続ける野見山さんの
作品、是非多くの方に見て頂きたいです。
これからのより一層のご活躍を楽しみにしております!