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田口実千代個展「melody」

今週の作家さんは田口実千代さん。
HBでは4回目の個展です。
朗らかでのびのびとした筆跡は田口さんならでは。
ゆったりとした時間が流れる、心地よい展示をお楽しみください!

一部作品はオンラインショップでもお取り扱い中です。
http://hbgallery.shop-pro.jp/

 

 

━田口さんは3年ぶり4回目のHB個展となりました。
多様なモチーフを描かれる田口さんが、
今回の個展タイトルを「melody」という1つの言葉に集約された理由をお聞かせください。

 

普段音楽を聴きながら絵を描くことがあるのですが、
一瞬で心掴まれ筆がのる事があります。
そんな音楽みたいに生活の中で、ふっと良いなと思える絵がいつか描けたらと、
「melody」というタイトルにしました。

 

 

━ 最近では油絵具で描くことも多くなっているそうですね。
油絵具の魅力はどんなところですか?
田口さんはアクリルガッシュやiPadでも描かれていますが、
画材はどのように使い分けているのでしょうか。

 

油彩画の魅力はキャンバスに描く時に伸びやかにかける事です。
アクリルガッシュはずっと使っていて一番馴染みある画材です。
iPadは線画を描いたり落書きしたり、今は気軽な感じで楽しんでいます。

 

 

━田口さんは絵日記やスケッチも数多く描かれていますね。
田口さんが生活の中で目にする全てが描くモチーフとなり、
風景も静物も有機的に瑞々しく表現されていることに感嘆します。
田口さんは1枚の絵の完成をどのように見極めるのでしょうか?
よし!と思った瞬間です。
ただ油絵は一週間以上乾かすのですが、乾いた後に見た時に少し描き足す事もあります。

 

 

━今後の発表予定や挑戦されたいこと、
イラストレーターとしての展望などをお聞かせください。

 

次の発表予定はないですが、作品を見て頂けるのはうれしいです。
装画、雑誌、パッケージ、ポスター、
見た方がちょっとでも心惹かれる、そんなお仕事が出来たら嬉しいですし、
そういうお仕事がくるよう出来るよう精進しないとと思います。

 

 

インタビュアー:須貝美和

Tsuin個展「はなとどく」

今週の作家さんはTsuinさんです。
HBギャラリーでは初めての個展となりました。
美しさの中に、怖さや危うさが垣間見える魅力的な作品群。
Tsuinさんの妖麗な世界観をご堪能ください!

一部作品はオンラインショップでもお取り扱い中です。

http://hbgallery.shop-pro.jp/

 

━ 個展タイトル「はなとどく」には
「花と毒」「花届く」2つの意味をこめられたそうですね。
展示作品も人物と併せて、花が描かれている作品が目立ちます。
Tsuinさんにとって花とはどのような存在なのでしょうか。

花は色や形から元気をもらえ、特に生きている花はそこにあるだけで元気をもらえる、ありがたい存在です。今回、DMをイメージして作った花束をくれた友人がいて、とても嬉しかったです。

 


 

━ Tsuinさんは装画や挿絵の仕事を数多く手がけられており、
今回の個展でもお仕事で描かれた挿絵が展示されています。
お仕事とオリジナルの作品を並列して展示しても、雰囲気に統一感を感じますね。
Tsuinさんご自身は物語に絵を添える仕事において、好きなジャンルはありますか?
また、得意なモチーフなどがあれば教えてください。

お話を読むのが好きなので、本の仕事はいつも楽しくさせて頂いています。モチーフとしては女性や子供、動物が好きです。ジャンルは問いませんが、ホラーやミステリーはウキウキして描いています。

 


 

━ 最近ではご依頼を受けたウェディングフォトの制作もされているとのこと。
依頼された方とはラフなどのやりとりはあるのでしょうか。
納品までどのようなプロセスを踏みますか?
これからお願いされる方に向けてご案内いただけますか。

ラフのやり取りはせず、完成までお任せいただいた形でした。細かく指定頂くより、自由に描かせて頂いた方が描きやすいので、絵の元となる写真を頂き、他は自由に描かせて頂きました。納期は1ヶ月ほど頂きました。

 


 

━ Tsuinさんの筆致には、人物の内面やバックグラウンドまで想像させてくれるような余地を感じます。
人物を描く際に意識されていることは何でしょうか。
また、現在の画風になるまでに影響を受けた方がいれば教えてください。

人物はほとんどその時の自分の気持ちを込めて描くことが多く、自画像のようなものだと思っています。描く時は音楽をかけて気分を高めています。

ピーター•ドイグ、網中いづるさんや日端奈奈子さんのようなきっちり描かない方が好きで、影響を受けていると思います。ちなみに網中いづるさんの原画(個展で購入しました)が家にあって、毎日眺めてます。

 


 

━ 今後挑戦されたいお仕事などや活動など、
Tsuinさんの展望を是非お聞かせください!


装画や広告、パッケージなど、見た人が何かしら嬉しくなるとか、癒されるとか、心を動かされるような仕事ができたらとても嬉しいです。

 

 

インタビュアー 須貝美和

春日井さゆり個展 「おままごと」

今週の作家さんは春日井さゆりさんです。

HBギャラリーでは初めての個展となりました。

アクリル絵具で丁寧に描かれた美しい作品の世界は

非現実的な側面もありながら心地の良い感覚を覚えます。

 

一部作品はオンラインショップでもお取り扱い中です。

http://hbgallery.shop-pro.jp/

 

ー春日井さんは装画や挿絵のお仕事で既にご活躍されており、

グループ展でも作品を発表されてらっしゃいますが、

HBでは初めての個展となりました。

今回の個展はどのような思いで準備を進めて来られましたか?

 

とてもありがたいことに、HB WORKコンペで特別賞をいただき、その受賞者展の際にオーナー様から個展のお誘いをいただきました。

本当に嬉しくて光栄だったのですが、急なことでしたのでとにかく思いついたものから作っていって、

はじめは綿密な計画やテーマは決めることなくふわっとした状態で、手を動かすことが先だと思い、なんとなくで進めていきました。

制作を進めていく中で、本当に身近な、日常で感動したことを切り取り作品にしたいと思いました。

「おままごと」というタイトルにして、全体としてはまとまったと思っています。

ー春日井さんは絵を描かれる際、

模型を作って描いたり、鏡を見て描かれるそうですね。

そのような描き方になったのはいつからなのでしょうか。

今の手法になった経緯などをお伺いできますか

 

以前、四谷のギャラリーでグループ展に参加した際、来てくださったお客様に

「ディティールを大事にしたほうがいい、まだ迷ってるところがあるように思うから見本や模型を簡単でいいから作ってみては」

と仰っていただいて、それから下準備的なことを以前よりしっかりするようになりました。

実際、やはり説得力みたいなものが強くなったかなとは思います。

 

ー書店に並ぶ春日井さんの装画は人目を引き、

ダヴィンチ8月号でもジャケ買いしたくなるイラストとして紹介されています。

普段描かれているオリジナル作品と、仕事のための作品、

描き進める中で、双方に意識の違いなどはありますか。

 

お仕事とオリジナルでは特に意識はないと思うのですが、装画の絵のラフを描くときは、

今までの私の絵と物語の雰囲気を結びつけるような感じで考えて、

その上でもう一歩踏み込むようなラフが描けるように心がけていますが、

やはり自分だけの作品ではないので、本当に緊張していて、

汗びっしょりになっていたりします。。

ー春日井さんは漫画も描かれており、

「幽霊とゆーれい」で、講談社が主催するアフタヌーン四季賞の佳作を受賞されています。

漫画でも日常のシーンを土台に描かれながらも、

非現実的な世界を私たち読者に体験させてくれます。

春日井さんのポストにある「すぐそばにある異世界」がイラストでも漫画でも共通する視点のように思えました。

春日井さんご自身は、独自の世界を表現されるために、

普段から準備されていることや取り組まれていることなどはありますか。

 

取り組んでることと言っていいのかは分からないのですが、漫画は小さい頃から大好きで、日常が嫌なとき、私の逃げ場となったときもありました。

大人になってからはお酒を飲んだり、出かけたりして逃げ場を作れるようになったのですが、

好きな作品の世界を思い描いたり、日常とは違う時間を過ごしたときの感じをストックしておく頭の逃げ場コーナーみたいなものをいつも設置しています。

頭の逃げ場には夜中に少し起きたり、日差しがいつもと違うなぁなど、ピンとくる景色や音や手触りのような形容しがたい感じもあり、

それを形にしたいと思っていて、それが絵や漫画の作品になっているので共通点があるのかもしれません。

 

ーますます活躍が期待される春日井さん。

挑戦されたいお仕事などや活動などはありますか。

今後の展望を是非お聞かせください。

 

また装画のお仕事ができたらなと思います。

雑誌や、商品パッケージなどにも挑戦したいです。

個展で大きい絵を描いたり、漫画も新作を描きたいですし、

作りたいものはたくさんありますのでこれからも制作を続けていきます。

この度はありがとうございました。

インタビュアー 須貝美和

松木直紀個展 「スクランブル」

今週の作家さんは松木直紀さん。HBでは3回目の個展となりました。

今回のテーマは渋谷の街。雑踏の中を交錯する音や光、空気感の描写は必見です。
松木さんらしい、しっとりとした臨場感をぜひお楽しみくださいませ!

一部作品はオンラインショップでもお取り扱い中です。
http://hbgallery.shop-pro.jp/

 

 

Q1.
松木さんは3回目のHB個展です。
「atmosphere」と題された2019年の初個展では明かりが灯る夜の街を、
続いて2021年「雨と雪」では新雪と雨の光景を描かれました。
今回は「スクランブル」と題し渋谷の街をテーマにされています。
渋谷をモチーフに選んだ理由をお聞かせください。

過去二回の展示では、近隣の住宅街など、誰も知らない街を描くことが多かったので、次は皆が知っている光景を描きたいと考えていました。
渋谷は、老若男女 国籍問わず色々な人がいて、明るいところも暗いところも、都会的な場所も自然が多い場所もあり、文化もスポーツも盛んで、本当に色々な要素がごちゃ混ぜになった面白い街だなという印象があり、そんな渋谷の光景を描き集めてみたいと思いました。

 

 

Q2.
松木さんはご自身で撮影された写真を元に絵を描かれるそうですね。
今回も実際に渋谷へ撮影に行かれましたか?
取材を終えてから絵を仕上げるまで、
松木さんはどのようなプロセスを踏まれるのでしょうか。

展示の構成をざっくり考えてロケ地の候補を洗い出した後、渋谷に取材に行きました。いくつか作品ができると全体の構成を見直すので、その度に何回か行っています。もともと20年くらい前にはよく渋谷に遊びに来ていたので、その頃を思い返しながら、街の変化を楽しみつつ歩き回っていました。
取材で撮影した写真は、フォトショップ等で他の写真や資料と組み合わせたり、線画を描き足したりして下絵を作ります。その後は下絵をベースにアクリル絵の具で描画します。

 

 

Q3.
お仕事で描かれる風景画はどのように制作を進められますか。
小説推理で挿画を担当された遠藤秀紀先生の連載小説「人探し」
こちらで描かれた駅の改札は、どこか特定の場所なのでしょうか。

制作の進め方は、基本的にはオリジナルと同じです。こういう絵にしたいというラフを作った後に、それに合う資料を探したり、ロケ地が思い浮かべば取材に行きます。それらを元に下絵を作って、アクリル絵の具で描きます。
物語の場合、あまり場所や人物が確定してしまうような描写はしたくないという思いがあって、ぼかすことが多いです。「人探し」の場合は実在する駅が舞台になっているので一応参考にはしましたが、それと特定できる要素は残していません。

 

 

Q4.
普段からどんなモチーフを描くときにも「空気感」や「雰囲気」を大切にされているそうですね。
絵を描き進めて行く中で、空気感、雰囲気を保つために工夫されていることはありますか?

意識的に気をつけているのは、あまり描き込みすぎないようにすること、あとは構図とモチーフ・ライティングでしょうか。
フルデジタルの制作だと描きすぎてしまうので、描画の段階ではアナログにしています。
街の絵の場合、街の空気は人が作ると思っているので、画面内に人がいない光景でも人の存在を感じさせるようなモチーフや灯りを入れるようにしています。

 

 

Q5.
松木さんは今年のTIS公募で見事入選され、ターナー賞,ファーバーカステル賞と企業賞をW受賞されました。
確かな実力をお持ちの松木さん。ますますのご活躍が期待されます。
今後の展望をお聞かせください。

書籍の装画や挿絵のお仕事はとても楽しく、今後も続けて行けたらと思っています。
街の絵を描くのが好きなので、そのあたりで雑誌や広告などのお仕事につながると嬉しいです。

 

 

インタビュアー 須貝美和

宮岡瑞樹個展 「ファジー」

今週の作家さんは宮岡瑞樹さんです。HBでは初めての個展となります。

デザイン事務所勤務を経て、2022年からイラストレーター・グラフィックデザイナーとして

書籍や広告を中心に活動されています。

日常の中に織り成される穏やかな時間、漂う空気、微細な感覚…

普段見過ごしがちな瞬間に立ち返るような美しい作品を是非会場でご覧ください。

一部作品はオンラインショップでもお取り扱い予定です。

http://hbgallery.shop-pro.jp/

Q1.

個展タイトル「ファジー」には宮岡さんのどんな思いがこめられているのでしょうか。

今回の展示のテーマについてお聞かせください。

 

心地よい空間にいる時に体がその空気に馴染んで溶け込むような感覚になる時があり、そのイメージを表現したいと思いました。

ファジーは「ぼやけた」「境界が曖昧」といった意味なので、テーマを一言で表している言葉でした。

 

Q2.

イラストレーターとグラフィックデザイナーの両立を目指し、昨年からフリーランスで活動をされているそうですね。

今回のDMもご自身でデザインされています。

イラストレーターとグラフィックデザイナー、2つの領域を横断することを選択された背景には

宮岡さんのどのような経験、考えがあるのでしょうか。

 

大学を卒業しエディトリアルデザイナーとして働き始めた頃は、イラストレーターになることは全く考えていませんでした。

デザイナーの立場からイラストレーションについて詳しくなりたいという思いから、

作品や作家さんの勉強をしていく中で描きたい気持ちが湧いていきました。

SNSに投稿した作品に少しずつ反応をもらえるようになりイラストレーターとしても活動する事ができるようになりました。

 

 

Q3.

装画やポスターなどのイラストレーションを描くこと、

書籍やフライヤーのデザインを制作すること。

各々の作業において心構えや意識の点に違いはありますか?

宮岡さんのこだわりなどもあればお伺いしたいです。

 

デザインの場合は決まったスタイルなどは持たず依頼内容に相応しい表現を心がけていますが、

イラストレーションの場合はスタイルに要望がある事がほとんどなのでその違いは意識しています。

要望をしっかりお伺いして、期待以上のものを制作して喜んでいただきたいという心構えは同じです。

 

Q4.

宮岡さんの震えのある線は

見る人の心の琴線に触れる繊細さもありながら

様々な解釈を許容するようなおおらかさも感じます。

線を描かれる際に、ご自身で意識されていることはありますか。

現在の表現になった経緯などもあれば併せてお聞かせください。

 

自分のイメージを表現できる線を探している時に、

たまたま手が震えて縒れてしまったか弱い線が魅力的に見えたのがきっかけです。

直線や曲線の形が崩れないように気をつけてノイズを足すような感覚で描いています。

 

Q5.

イラストレーターとグラフィックデザイナー

各々の立場で今後手掛けたい仕事や

自主的に取り組みたい活動などはありますか。

宮岡さんの今後の展望をお聞かせください。

 

自分の絵を使って自分でデザインする機会は少ないのですが、とても楽しいですし両方の立場を活かせると感じています。

文芸作品で装丁と装画を一緒に担当させていただくことが今一番の目標です。

夏季休廊、オンラインショップお休みのお知らせ

8月10日(木)~8月23日(木)まで、夏季休廊とさせて頂きます。

それに伴いまして、HBオンラインショップの発送業務もお休みさせていただきます。
休廊期間中にいただきましたご注文やお問い合わせについては、
8月24日(金)以降に順次対応させていただきます。
商品到着が遅れますことご了承くださいませ。

ご不便をおかけ致しますが、どうぞよろしくお願いいたします。

 

HB FILE COMPETITION vol.33 鈴木成一賞 田渕正敏個展「Signal」

HBファイルコンペvol.33 受賞者展ラスト!第6週目の作家さんは
鈴木成一さんの大賞を受賞された田渕正敏さんです。

多数の技法を駆使し、複雑な試みが垣間見える見応え抜群の内容でありながら、
鮮やかなブルー一色で統一された夏らしい涼やかな展示となりました。

会期中、付箋に手書きで作品の解説を加えていくなど
田渕さんらしいアイデアも必見です!ぜひ会場でご覧くださいませ。

一部展示作品はのちほどオンラインショップでもお取り扱いいたします。
http://hbgallery.shop-pro.jp/

 

 

Q1.
鈴木成一賞 大賞受賞、おめでとうございます。
受賞を知った時はどんなお気持ちでしたか?
鈴木成一さんに選ばれた感想もお聞かせください。

 

A1.
応募作は2年前に描き始めたシリーズで、大きな絵の変化を感じてコンペティションに応募することを決めました。
10年以上のキャリアがある中でこの変化がどのように受け取られるのか期待と不安がありましたが、とても早い段階でピックアップして頂けたことがとても嬉しかったです。

鈴木成一さんは、自分の読書体験と密接に関わるグラフィックデザイナーで小説に魅了されるきっかけとなった東野圭吾「白夜行」「幻夜」のブックデザインをはじめ
本屋に通うということが習慣になった学生時代に出会った書籍が多く、装幀・ブックデザインという言葉を意識し始め装画を描くことを志す時期と重なります。

そうして小説の装画を描きたいと思ってイラストレーターになったものの、10年間で数冊のチャンスしかありませんでした。
ファイルコンペ受賞のお知らせを頂いた時はとても嬉しかったのですが、ここから仕事に繋げるまでが大変だということが分かっていたので
受賞の4日後に鈴木成一デザイン室から装画の依頼を頂いた時にようやくやりたいことに辿り着いた思いでした。

鈴木さんから装画についての絶対的な指示は無く、とにかくゲラを読んで描いてみて下さいということを言ってくださるので、こちらとしては思いきりフルスイングで取り組めています。

 

Q2.
応募されたファイルを作成するにあたり、
工夫されたことや意図されたことなどはありますか?


A2.
まずは1年で様々な方向性の絵20枚を完成させるということに苦心しました。一つ手応えがあると似たものを量産してしまいがちなので、
そのスタイルを毎度避けたり壊したりしながらまだ試みてないことは何かを考えながら描きました。
20枚を完成させた後、今度はB4ファイルという形式での見せ方に苦戦しました。
B2サイズで描いている原画をB4サイズに縮小して見せなければならないので縮小することで消えてしまうディティールを時間をかけて補正しました。
横位置の絵は見開きで見せるとインパクトがありますが、ファイルの構造上真ん中で真っ二つに割れて下地の黒が見えてしまうので
絵の中心に重要なモチーフがある絵はセレクトから外しました。


Q3.
2023年はHBの受賞展の前に既に3回個展を開催され
アートフェスティバルへの参加やポップアップショップにも出店されています。
クライアントワークも数多く、非常にお忙しい日々の中で
同年開催の1つ1つの個展に対し、どのようにテーマやポイントを棲み分け、
準備を進めてこられたのでしょうか。

スケジュールを完遂させるために、田渕さんが日頃意識されていることや、
生活習慣などもあればお伺いしたいです。

A3.
去年から今年にかけてコンペティションで良い結果が残せたので、このタイミングしか無いと考え
仕事は多少セーブしながら出来る限り作品制作に時間を割きました。

3回の個展にはそれぞれやりたいことがありました。

初回の「アルバム」@ギャラリー・ルモンドでは改めてイラストレーターとして自己紹介をする。
2回目の“Tags”@Diegoではギャラリーという空間全体を使って青い絵が一つの作品として見えてくるように展示をする。青を印象付ける。
3回目の「青いfoods」@恵文社では過去作と近作を同列に並べて絵の変化を確認する。
東京以外で個展をするのが初めてだったので、その可能性について考える。
以上のような事を考えていました。
立て続けに個展をするのは体力も精神もすり減りますが、初回以降は全て新作で挑むということを辞めたので何とかなりました。スケジュール管理はとても苦手な上に無謀な構想ばかり思いついてしまいます。
さらに日常生活も大切にしたいという欲張りなので、何とかかんとか平日の日中に仕事も作品制作も収めるようにやりくりしています。

子供が成長し以前よりも時間に余裕が出来たことも作品制作に大きく影響しています。
妻の提案でそれぞれが平日の内の1日は仕事に限らず夜遅くまで自由に過ごしても良いという取り決めになり
僕は水曜日をその日に充てて大量の作品を制作をすることが出来ました。
ほとんどの作品がこの「水曜日」に描いたものなので個展のタイトルにしようかと候補にしておりました。

 


Q4.
グラフィックデザイナー松田洋和さんとのユニット“へきち”での活動、アトリエでの読書会など
「イラストレーション」に対して課題を投げかけるような発信をされており、その視座の高さに感服します。
田渕さんはどのようにご自身の視野を広げ、洞察力を高めてこられたのでしょうか。


A4.
作品集や個展を企画する時にはいつもグラフィックデザイナーの松田洋和に相談してきました。

僕は見切り発車でとにかく何か描いてから考えるというような絵が多く、飽きてしまうのもとても早い、
描いてしまったらあまり自分の絵に関心が無いので管理もとても雑になります。
それが松田のおかげで作品をそれぞれ本にしてアーカイブしたり、アトリエで保管したり出来る様になったので松田様様です。
松田がデザインした僕の作品集は12年で60タイトルを超えていて、僕が描くものを1枚たりとも溢さないという姿勢に励まされます。
松田はペインティングも素描もフラットに捉えられていて、素描は下描きとしか捉えていなかった僕の視点を
素描のまま痕跡とするという見せ方もあるというように変えてくれました。
今回の展示でも普段は捨ててしまうようなメモ書きや落書きまで全てスキャンしてスケッチ集として販売しています。
イラストレーションについては仕事以前にただファンであり続けています。
未だに話題といえばあのイラストレーターが良いだの、新しい人出てきただの、あの装画誰だろうね〜などと学生の頃から変わらないままです。
学生の頃はインターネットもまだ主流でなく雑誌の影響力が強かった。
玄光社のイラストレーションという雑誌と書店に並ぶ書籍の装画だけが僕のイラストレーションの知識の全てでした。
その頃見た誌上コンペTheChoiceの世界観が目に焼き付いていて大きく影響されています。
グラフィックとしてのイラストレーションはもちろん、そのシステムにもとても興味があります。
絵を描いてそれが商業として成り立つシステムが当然のように世の中にあって、イラストレーターが職業として認知されている。そのことにずっと驚きを持っています。
そこにはもちろんグラフィックデザインやイラストレーションの分野の先人達の尽力によって信頼を得ていった歴史があります。
そういったイラストレーションを取り巻く歴史に興味を持つと自ずと視野を広くする必要に迫られるのかも知れません。
HBGALLERYでの展示もイラストレーションの歴史の一端に触れる思いで嬉しく思っております。

 

Q5.
今回で青のイラストレーションの展示は一旦区切りとされるということですが、
何か新しいテーマがあるのでしょうか。
田渕さんの今後の展望やビジョンをお伺いできますか。

 

A5.
作品で試みてきたことが仕事で求められ始めているので、そこに注力したいと思っています。いつ仕事が来ても対応できるようにと様々にシュミレーションして作品を作るのですが、
いざ依頼が来ると自分の想像を遥かに超えたテーマが降りかかって来ます。
サッカーが好きな息子が「PKは練習できない」という話を聞かせてくれました。
基礎は練習できるけれど本番の緊張感は再現出来ないということらしいです。
装画も同じ様に本番でみなぎる想像力がとても待ち遠しくそれがやりがいになっていると思います。

今後の展望としてはもう少し青い絵でやり残しを感じているところをゆっくり進めながら、

振り子が大きく揺れるように異なるベクトルの作品を作ってみたいと思っています。
鈴木成一さんには「そろそろこのシリーズに飽きる頃だと思うから、次回作に期待します」と僕の資質を見抜かれていたので
期待に応えてまた面白い絵が描きたいです。また10年かかるような気もしますが。

 

HB FILE COMPETITION vol.33 河西達也賞 こみひかるこ個展「ぴかぴか PikaPika」

HBファイルコンペvol.33 受賞者展、第5週目の作家さんは
河西達也さんの大賞を受賞されたこみひかるこさん。初個展です!
弾けるような曲線で描かれた、可愛らしい動物たちをたっぷりお楽しみください。

会場では、シナ材でつくられた壁掛けオブジェなど
こみさんならではの新たな試みもご覧いただけます。ぜひお越しくださいませ!

一部展示作品はオンラインショップでもお取り扱い中です。
http://hbgallery.shop-pro.jp/

 

 

Q1.
河西達也賞大賞受賞、おめでとうございます。
受賞を知った時はどんなお気持ちでしたか?
河西達也さんに選ばれた感想もお聞かせください。

 

A1.
河西さんのお仕事をかなり以前から拝見していて、手掛けられるパッケージやグラフィック等、全てがとても可愛らしく素敵なものばかりで、
いつも発売されたらお店へチェックしに行っておりました。その為、受賞をお聞きした時、飛び跳ねるほど嬉しかったです。

 

Q2.
応募されたファイルを作成するにあたり、
工夫されたことや意図されたことなどはありますか?

A2.
流れるように、スムーズにページをめくっていただけるように、イラストの順番に気をつけておりました。
テイスト的にも、静と動を交互に感じられるようにして目線が退屈しないように工夫して選択しました。

 

Q3.
こみさんは広告制作会社に勤務されているとお聞きしております。
デザイナーとして成果を出しながら
ご自身のイラストレーションを数多く制作されているのが
大変素晴らしいと感じます。
限られた1日の時間をどのように管理し、制作時間を確保されていますか。
ご自身で気をつけていることや心がけてらっしゃることはありますか?

A3.
まだまだ時間の使い方が難しい所はありますが、勤務時間前後の朝と夜やお休みの土日祝日を使って、イラストレーターの活動をしております。
平日に下書きだけ進めて、土日のまとまった時間を確保できる時に着彩していたりなど、
iPadでの制作がメインなので、その辺りは思い立ったらすぐ取りかかれるところがデジタル作画の良いところかなと感じております。


Q4.
こみさんは学生時代から温かみのあるイラストレーションを描かれていますが、
幾何形態をベースとした直線的な表現から
現在では曲線を主体に、より伸びやかに、より愛らしく、
ますます進化されているように感じます。
こみさんご自身はどのようなビジョンを持ってイラストレーションを制作されてきたのでしょうか?

A4.
学生時代はイラストは好きでも、描くこと自体に不慣れで、コンパスや定規を使って製図するように絵を描いておりました。
社会人になってから、普段のお仕事等を通じて自分の描きたいものが明確になり、肩の力を抜いてのびのびと制作できるようになってきたと感じます。
また、「こんな犬がそばにいたらいいのに〜」といった、生活の中に癒しを求めて描いていた部分が大きかったかと思います。

 

 

Q5.
イラストレーションのお仕事で手がけてみたいジャンルや、
取り組みたい活動など、
こみさんの今後の抱負を是非お聞かせください。

Q5.
様々なジャンルで良いお仕事ができるように、これからも新しい表現に挑戦し続けていきたいです。
絵本や本の装画など、物語に関わるお仕事も、たくさん増やしていけたらと思っております。


HB FILE COMPETITION vol.33 八木彩賞 メリヤスミドリ個展「PLANT KILLER」

HBファイルコンペvol.33 受賞者展、第4週目の作家さんは
八木彩さんの大賞を受賞されたメリヤスミドリさん。初個展です!
デジタルで作品制作されているメリヤスさんですが、今回はご本人の手作業によるシルクスクリーンや
メタリックな質感の大作など、一味違う展示となっております。
会場ではメリヤスさんが装画を担当された書籍『ドライブイン・真夜中』のほか、シルクスクリーンTシャツなどのグッズも。
ぜひお越しくださいませ!

一部展示作品はオンラインショップでもお取り扱い中です。
http://hbgallery.shop-pro.jp/

 

Q1.
八木彩賞大賞受賞、おめでとうございます。
受賞を知った時はどんなお気持ちでしたか?
八木彩さんに選ばれた感想もお聞かせください。
A1.
コンペは第三者から見た意見や作品の強度を知るための力試しで応募していたので素直に嬉しかったです。
広告の第一線でご活躍されている八木彩さんだからこそ、
印象に残るインパクトや新鮮さを評価いただけたのかなと思います。
Q2.
メリヤスさんが応募されたファイル作品はモノクロームで統一され
フィルムで撮影された写真集を見ているかのような
美しい諧調がとても目に残ります。
応募されたファイルを作成するにあたり、
工夫されたことや意図されたことなどはありますか?
A2.
統一感がある反面、単調にならないように構成を考えました。
モチーフの順番や大きく見せたい見開きのイラストをどこに持ってくるかなど検証しました。

Q3.
メリヤスさんの表現は静けさの中にも、鐘の音のように長く響くような強さを感じます。
この独特の質感はどのように生み出されるのでしょうか。制作プロセスをお伺いしたいです。
A3.
繊細さと力強さは製作する際に意識していることなのでとても嬉しい評価です。
普段は手書きのラフからイラレでベースを作り、フォトショでライティングや質感を描き起こしています。
デジタルの処理ですが自分はやっぱり手触りのあるものが好きです。
今回の展示はシルクスクリーンも使っているので、また違った質感にできたと思っています。
制作しているときはモノクロで描いているというより、暗い空間の中に黒い質感のモチーフを作っている感覚なのかなと
最近自分では思うようになりました。

Q4.
メリヤスさんがInstagramに投稿されている作品を拝見すると、
カラフルな作品からモノクロームの作品へと切り替わり、
構図に関しても、対象へ接近するかのように、
距離が縮まった印象を受けました。
メリヤスさんの絵が変化された転機などはあったのでしょうか。
A4.
最初は流行っているようなカラフルなトーンでなんとなく制作していました。
でもそこに自分のイズムが何もないなって気づいて、
予備校や学生時代は黒い背景で作品を作ることが多かったのを思い出しました。
原点回帰のつもりでモノクロを試してみたのがしっくりきてこの表現を突き詰めてみようと思いました。
Q5.
9年間勤められた会社を独立されたそうですね!
イラストレーターとして、アーティストとして、
どのような活動をされていきたいですか?
手掛けたい仕事、挑戦されたい表現方法など、
メリヤスさんの今後の抱負を是非お聞かせください。
A5.
海外のお仕事や展示には挑戦してみたいので、近いうちに実現したいです。
具体的な案件だとファッション系や香水/フレグランスなどにも興味があります。
自分のトーンとマッチするブランドやジャンルはきっとあると思うのでその世界観をビジュアルにしてみたいです。
あとはどんな仕事をやりたいかと同じくらい、どんな人と一緒にやりたいかも重要だと思います。
素敵な方々とご一緒できるように自分もスキルアップを頑張っていきたいです。

インタビュアー 須貝美和

HB FILE COMPETITION vol.33 鈴木久美賞 濵佳江個展「アソートメント」

HBファイルコンペvol.33 受賞者展、第3週目の作家さんは
鈴木久美さんの大賞を受賞された濵佳江さん。初個展です!
動物、お菓子、お花…思わず集めたくなるような可愛らしいものたちがぎゅっと詰まった展示です。原画の丁寧な筆致にもご注目ください!

会場ではハンカチやワッペンなど濵さんならではのオリジナルグッズのほか、コンペ受賞ファイルも閲覧できますのでぜひお立ち寄りくださいませ!

一部展示作品は後ほどオンラインショップでもお取り扱い予定です。
http://hbgallery.shop-pro.jp/

Q1.
鈴木久美賞大賞受賞、おめでとうございます。
受賞を知った時はどんなお気持ちでしたか?
鈴木久美さんに選ばれた感想もお聞かせください。

A1.
受賞を知った時はやった〜!と心が躍るような気持ちでした。そしてだんだん冷静になって覚悟の気持ちに変わりました。

鈴木久美さんの審査評を拝聴した時に、とても細やかな部分まで丁寧に解説してくださっていて主観では気付けなかった捉え方や可能性を知ることができました。ひとつひとつの言葉を糧にして評価していただいた部分をもっと伸ばせるように頑張ろうと思いました。

Q2.
応募されたファイルを作成するにあたり、
工夫されたことや意図されたことなどはありますか?
何かテーマは持たれたのでしょうか。

A2.
一枚の絵を簡潔にすることを意識しました。「りんご」「犬」「花」といった認識しやすいモチーフを選び、「持つ」や「つまむ」などシンプルな手の動作を加えた構成にして、ページをめくるとテンポよくシーンが切り替わっていく見せ方にしてみました。楕円の形に揃えたのは手元に焦点を当てたくて視野を狭くできたらという意図があります。絵のテーマは「理想の暮らし」です。飼っている動物を可愛がったり、季節の果物や植物を楽しんだり、そんな本の挿絵のような世界観を目指しました。

Q3.
受賞が決まり、個展までの約半年間、
決して長くはない準備期間と思われますが
濱さんにとってどんな時間でしたでしょうか?
個展タイトル「アソートメント」にされた理由もお聞かせください。

A3.
この半年間は個展に向けて毎日少しずつ絵を描いていました。頭の中にあったアイデアをたくさん作品にできたので、描き終わった今は気持ちがすっきりしています。時間に追われる日々でしたが東京で個展ができるという非日常なわくわく感を楽しんでいました。

「アソートメント」は「詰め合わせ」や「色んな種類」という意味があると解釈しています。同じモチーフが等間隔に並んでいたり、色んなものが集合しているレイアウトにはなぜか人の心を惹きつけるものがあると感じていて、そんな絵をたくさん描いて並べたいと思いました。お気に入りのモチーフを集めたり、配色や柄を考えたりすることがとても楽しかったです。

Q4.
濱さんの作品は形の美しさはもちろん、
配色においても、青の使い方がとても魅力的だと感じました。
特に、描かれた動物の澄んだ瞳が印象的で心に残ります。
絵とご自身と、丁寧に向き合われているのだなと感じるのですが
濱さんご自身は、描く際に何か心がけられていることはありますか?

A4.
学生の頃はプロダクトデザインを学んでいたので形の美しさを評価していただけることはとても嬉しく感慨深いです。
心がけていることはデザインしている気持ちで絵を描くことです。必要な線や色数をなるべく少なくしたり、レイアウトや配色のバランスにメリハリをつけたり、心地よい形や色のことをいつも考えています。

Q5.
イラストレーションのお仕事で手がけてみたいことや、
作ってみたいグッズ、取り組みたい活動など
濱さんの今後の抱負を是非お聞かせください。

A5.
手がけてみたい仕事はバレンタインのパッケージです。毎年デザインを楽しみにしていて憧れる仕事のひとつです。
作りたいグッズは絵の中でデザインした器や包装紙や靴下たちです。もともとはデザインしてみたいものを絵の中に落とし込んでいるのでそれを実際に作ってみたいです。

絵を描き始めて3年経ちますが、描きたいテーマや細部の表現方法などしっかりと定まっていない部分がまだまだたくさんあると感じています。もっとたくさん作品を描いて研究して、自分らしい絵が描けるように技術とセンスを磨いていきます。